2011年3月におきた福島原発事故から5年9ヶ月が経過した。震災に関連した報道も少なくなり,現地の状況を知る機会も減ってきている。しかし,福島原発事故は,福島だけでなく広範囲にわたり,今も様々な問題を残している。教育者を目指す者として,事実を知り自分に何ができるかと問いを立てたのが本研究の動機である。
千葉県柏市「柏の葉公園」では,線量が高い部分があるとの千葉県民の情報提供を受け,行政の調査が行われた1)。結果は,県の除染対策基準(0.23μSv/h)を下回っていた。平成28年10月,現地で我々が調査した範囲でも,1m線量は0.15μSv/h程度であり,行政の測定値と大きな差異はなかった。しかし,行政の調査では行われなかったようだが,我々は土壌の採取・測定も行った。その結果,800~2200Bq/kg程度の放射能が認められた。これは八王子市で採取した土壌の値(200~300Bq/kgで自然放射能か人工放射性セシウムかの判断が難しい値)の4~11倍程度の値である。また,全ての土壌サンプルのγ線スペクトルに,人工放射性セシウムの鋭いピークが認められた。こうした環境が,同公園を利用する人々の健康にどう影響するかはわからない。しかし,多くの人が利用する公園の土壌に,この程度の放射能が検出されたことは重く受け取らねばならない。
平第一小学校は福島県いわき市に位置し,現在相馬・双葉地域から36名の被災児童を受け入れている。当時,本小学校の敷地では0.3μSv/h以下の線量であり,国の除染基準(0.23μSv/h)を下回っていた。しかし,福島県内全体では0.3μSv/hを越えている地域も多いため,安全性についての疑問もあった。また,保護者の意向によっては給食を弁当対応に,運動会の中止など,学校行事や運営に支障が出た。いわき市では震災当時,500名が亡くなり,その2名は児童だったことから,今後の防災教育では,引き渡し訓練などが重要となるようである。
埼玉県戸田市前市議の中名生 隆氏を外部講師に招き,講義を受けた。荒川水循環センターでは,福島原発事故で飛散した人工放射性セシウムの影響で,下水汚泥焼却灰から高濃度の放射能が検出された。これらは大量のフレコン袋に入れて構内に保管されていたが,現在では8000Bq/kg以下の焼却灰のほとんどは低濃度のものと混ぜ合わせ,埋め立て処分されている。しかしそれらの行方の詳細は公開されていない。
福島原発事故に関連し,現在もなお問題となっているのが小児甲状腺癌である。福島では既に174人が発症したという事実を踏まえ2),八王子中央診療所の山田 真先生の話を伺った。近年の医学の進歩により,これまで発見できなかった癌も見つかるようになり,癌の診断に影響している。そして,現在は治療を継続している子どもは多いが,被曝と関連づけるデータは公開されておらず,福島の発症事例と比較可能な対照データも見あたらない。行政・国は,小児甲状腺癌の発症は福島原発事故と関連がないと主張している。しかし,以上の状況から考えると,こうした主張には無理がある。
原発54基を保持する日本において,今後のエネルギー問題を考えるにあたり,学校教育で放射線について学ぶ重要性はますます高まっている。ここで作る指導計画は,児童が放射線に関する正しい知識を身につけ考え,自分の身を自分で守ることを目的とする。福島県の指導資料3)と複数の副教材の比較検討を踏まえ,小学校6年生向け指導計画を作成して模擬授業による検証を試みた。
柏の葉公園の調査や多摩浄水場の問題では,福島原発事故の影響が広範囲に及んでいることを痛感した。小児甲状腺癌の現状は,今後の情報の公開や医療のあり方,患者の救済についての課題を考えるきっかけとなった。また,平第一小学校での調査は,教育者を目指す者として,原発事故という特異な状況下にあって,現場の苦労や児童の様子を伺える貴重な機会となった。今後は,これらの調査で学んだことを教育現場で生かしたい。
≪引用・参考文献≫
1) 柏の葉公園内の空間放射線量の測定結果(28/3/16)
https://www.pref.chiba.lg.jp/kouen/press/2015/280316-sokuteikekka.html
2) 第24回福島県「県民健康調査」検討委員会
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-24.html
3) 福島県教育庁HP http://www.gimu.fks.ed.jp/