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研究発表D-2

学校におけるいじめ問題に関する研究―いじめ早期発見支援ツール開発の試み―

並木 昭 (創価大学教職大学院)

1 問題と目的

いじめ防止対策推進法の公布に伴い,文部科学省は「いじめ防止等のための基本的な方針」を策定した。同方針には,いじめ防止等のための対策について,重大事態への対処の在り方と,未然防止及び早期発見のための重点が示されている。

いじめの未然防止と早期発見においては,いじめの「見えにくさ」への適切な対処が課題となる。平成27年8月に文部科学省が「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の調査項目のうち,平成26年度内におけるいじめについて,各学校に再調査を依頼していることからも,国がいじめの正確な認知を重要な課題と捉えていることが分かる。この再調査の結果,いじめ認知件数は当初の提出時よりも全国で約3万件増えたものの,件数の児童・生徒1,000人当たりの都道府県間の格差は30.5倍(当初調査時は90.9倍)あった。いじめ認知の精度には相当のばらつきがあると考えられる。

いじめの見えにくさについて,森田(2010)は,いじめられる側とそれ以外の者による認識にズレが生じるケースがあることを指摘している。また,森田は文部科学省が求めている児童・生徒への質問紙調査とケース相談の併用は,いじめという現象の性質に即した方法であると言及している。

本研究は,学校におけるいじめ早期発見のために実施する質問紙調査の効果的な分析手法の開発を目的とする。分析手法の適用例を通じて,いじめ早期発見の方策について提言する。

2 研究の方法

(1)調査対象,調査時期,調査方法

平成27年9,10月に都内公立小学校第4学年児童84名を対象に質問紙調査及び全員面接を実施した。

(2)分析方法の検討

質問紙(9項目4件法及び自由記述「3つの願い」)の信頼性を検証するとともに,各児童の回答の非類似度(他の児童との答え方の違い)を視覚的に把握できるようにする。

3 結果と考察

(1)質問紙調査

質問紙回答(4件法)を因子分析した結果,2因子が抽出された(Table 1)。また,同回答の集団内における相対的な非類似度を各設問回答の分散及び相関係数を考慮して算出したところ,いくつかの回答は非類似度が他と比較して明らかに高いことが確認された。

この非類似度スケールを「個別的援助の優先度」を表す指標と位置付け,全員面接のための資料とした(Fig. 1)。

Table 1「自分の生活についてのアンケート」/因子分析結果(最尤法,プロマックス回転) Fig. 1「自分の生活についてのアンケート」/非類似度スケール(数字は非類似度の順位)

(2)全員面接

児童との全員面接では,前述の非類似度スケールに基づいて面接時間や質問内容を設定した結果,クラスメイトへの暴力行為を認め,暴力への衝動と向き合う姿勢を見せる児童や,担任に対する援助要請の意思を示す児童を発見することができた。本研究による分析方法が,心理的な健康状態がグレーゾーンにある児童を把握し,いじめをはじめとする児童の悩みや困りへの援助に寄与するものと考える。

≪引用・参考文献≫
森田洋司(2010)『いじめとは何か』中央公論新社

キーワード:いじめ認知,3つの願い,多変量外れ値検出