研究の目的は教育学部・教職課程の学生におけるサービス・ラーニングの実践における有効性について日米比較を行うとするものである。本発表では日本における実践とその効果に取り上げるが、特に市民性の獲得に着目するものとする。
サービス・ラーニング(以下SLとする)は「コミュニティーへの活動とアカデミックな学習とが結びついた学習形態で、効果的なSLにはアカデミックな準備と計画的な振り返りが含まれている」とされ、「SLの目的は、責任ある市民としての資質を育成することである」と説明されている(TANDARDS of QUALITY for School-Based and Community-Based Service-Learning、1995)。背景にある教育理論には、個人と社会・地域とが身近に深く関わることで知的・人格的発達が可能になるというデューイらの経験主義がある。
米国において1980年代より高等教育を中心に取り入れられるようになったSLは、日本では1990年代後半より注目されるようになった。教員養成課程におけるSLは当地において「言葉として主流になっているが、中核のコースや不可欠の要素として位置づけられるまでは至っていない」とされている(Anderson, J. & Root, S.,2010)。背景には、教育実習やインターンシップとの混同などがある(同,2010)。日本においても近年、SLの実践や研究は近年多方面から行われているが、教員養成における実践や研究はまだ少数である。
教育学部の演習(ゼミ)の一環として2013年度から2014年度にかけて行われたものである。SLの方法により、授業時間にはデューイなど経験主義に基づく理論研究を行い、それを適応する形でプロジェクトが進められた。プロジェクトは学生自身の自主的な活動として授業時間以外に行われた。プロジェクトは大学生による、高校生が社会貢献事業案を作成するための組織を立ち上げ、運営するという活動である。大学生は主に次の活動を行った。
1高校への参加呼びかけ、参加高校との連携
2大学生サポーターの募集とその監督、支援
3大学生サポーターとして高校生の直接の支援
4スポンサーの募集、後援団体との連携
5発表大会の運営とメディア対応
6参加高校生との活動の振り返り
高校生は途上国の給食制度の支援の枠組みを考案したり、ゴミ問題を核にした地域の紐帯づくりの方略を提案したりした。
研究の理論的枠組みとして以下を参照した。
1コ-ブ(Kolb, 2001)らによる省察モデル
2ハワード(Howards,2001)による市民性の育成の定義「市民参画のために必要な知識、技能、価値を身に付け、行動的な市民となること」
3研究の仮説としてバティストーニ(Battistoni, 2013)による「SLを経験することによって、公共的な問題にかかわったり、好ましい変化をもたらしたりする、市民としてのアイデンティティを獲得することができる」等を用いた。
量的・質的分析によるミックス法を用いた。量的分析については6つの領域からなるCASQ(the Civic Skills and Attitudes Questionnaire)を用いてプレ・ポストテストを行いT検定により分析を行った。質的分析にはリフレクションペーパーを用いた。
市民としての行動力、政治への意識、自己効力感は向上したが、リーダシップ技能は低下した。
ミックス法を用いた結果、CASQの有効性が確認されるとともに活動を通して市民性を身につけたことが明らかになった。他方、日本において、リーダシップ技能が低下した背景には、リーダシップに対する認識や獲得のあり方において日米の文化的な相違があるものと考えられる。
キーワード:サービス・ラーニング、市民性