特別な支援を必要とする幼児児童生徒は年々増加してきており、通常の学級にもLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、自閉症などの障害のある児童が在籍していることがあり,これらの児童については,障害の状態等に即した適切な指導を行わなければならないとされ、平成20年度に出された小・中学校学習指導要領の中に、「個別の指導計画」を作成することが明示された。「個別の指導計画」の作成・活用は、児童の成長を促すためのツールになるだけでなく、教師自身が児童を理解するための有効な手立てだと考えられる。
現在、「個別の指導計画」の作成率が、上昇している実態がある。しかし、年々多忙化・煩雑化する教育現場で、現実に、通常学級の担任が一人で「個別の指導計画」を作成・活用することは多くの困難があることが推測される。
そこで、「個別の指導計画」を中心とした学校全体で取り組む協力システムをつくることで、担任一人の負担が減るだけでなく、児童を様々な角度からみる目が増えるのではないかと考えられる。
1.本研究では、「個別の指導計画」を作成するにあたって担任教師が感じる困難感や有効感について検証する。困難感から必要感へと変わるために、担任教師が一人だけでなく、学校全体で指導を充実させるためのシステムの構築を明らかにしていく。そのための教師による働きかけについても検証していく。
2.「個別の指導計画」をもとに児童への指導に活用している公立小学校の特別支援教育の取り組みを事例として取り上げる。
1.先行研究などを調べ、文献や資料による調査を行った。
2.市全体で特別支援教育を推進しているあきる野市立前田小学校の特別支援教育コーディネーターへの聞き取り調査を行った。
「個別の指導計画」を作成するにあたり、「困難感」を感じることはなにか、という調査で一番多かったのが、「作成や話し合いに時間がかかりすぎる。」であった。小学校現場における「多忙感」が強いものであると考えられる。担任一人では十分に作成できないという状況があるが、複数の支援者で話し合う時間を確保することも難しいのが現状である。
前田小学校では、巡回相談等を活用して、特別な配慮が必要な児童に対して支援を行っている。巡回相談の一連の流れは以下の通りである。
①授業観察及び相談・検討会には、管理職、校内委員会メンバーもできる限り参加する。
②検討会は、原則として授業観察後1時間とする。(学習指導補助員も必要に応じて参加する。)
③担任は、事前に「アセスメント表」「個別の指導計画(各学期に目標をたて・終わりは振り返り・評価を行う)」を作成する。また、座席表も用意する。→相談員に3~4日前までに届ける。
④その他
児童の様子を理解・把握するための手だてとして、「チェックリスト表」を利用し「アセスメント表・個別の指導計画」作成に利用する。
担任が作成した個別の指導計画をもとに、巡回相談員が対象児童のいるクラスを観察する。
前田小学校では、担任教師が作成した「個別の指導計画」をもとに、巡回相談を充実させることで担任教師だけでなく、複数の視点から児童の指導にあたっている。また、同様に特別支援教育委員会の充実も図っている。管理職、各学年の担任、専科、通級担任、養護教諭、が構成メンバーとなっている。特別支援教育コーディネーターだけが仕事を担うのではなく、それぞれに役割をもたせることで学校全体で協力して特別支援教育に取り組む支援体制をつくっている。
「個別の指導計画」を活用した指導を充実させるためには、担任教師がその必要性を感じることが重要である。また、担任教師だけの負担にならないために、学校全体で協力して取り組んでいこうとする意識を持つことや、教師間そして関係機関との連携を密にもつことの必要性が考えられる。
キーワード:個別の指導計画、巡回相談、学校全体の協力システム、特別支援教育
≪主な参考文献≫
小坂みゆき・姉崎弘(2011)小学校における「個別の教育支援計画」及び「個別の指導計画」の作成・策定と活用~有機的な支援の連携を目指して~