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創価大学教育学会>書庫>2014年 第13回大会研究発表抄録
研究発表A-2

学級担任を対象としたいじめ問題の解決に向けた教員研修プログラムの在り方
 ~学級経営と結び付けて~

美甘光生(創価大学教職大学院)

1.問題の所在

(1)いじめ問題に関する教員研修の必要性
 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)では、次のように規定されている。(学校及び学校の教職員の責務)
  第八条 学校及び学校の教職員は、(中略)学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。
 これらを実施する上で、欠かすことができないのが、教員研修がある。学校現場で行われる研修を行うことでいじめへの取り組みが変わってくるものと考えられる。

(2)いじめ研修指導の難しさ
 しかし、研修がいじめ予防に役立つとする教員は1割しかおらず、また、実際に参加経験者も2~3割しかいない。研修が役に立たないと答えた中に「研修が現状を踏まえていない」「すでに分かっていることが多かった」とする教員が6割であった(三浦,1998)。

(3)学級集団のゆがみとしてのいじめ
 山中(1995)によると、友人作りに焦る児童・生徒の実態、学級の目標がなくなる狭間に教員の油断も重なっていじめ問題が起きやすいこと、そして児童相互の人間関係や学級内の社会的地位を確保が優先されるために、いじめを受けてもそのグループにいる理由になっていることなどが論じられている。
 ここに、いじめ問題への取り組みに際して、学級担任教師の役割が重要であることが改めて認識することができる。
 以上より、学級担任を対象とし学級経営と関連づけた研修のあり方を検討することは、いじめ問題防止のために重要であると考えられる。

2.研究の目的と方法

学級担任に必要な研修をどのような形で実施したらよいか。学級担任の視点とともに、研修を実施する専門の研究者の視点から検討する。

(1)学級担任へのインタビュー調査
 学校現場でいじめを指導した教員にインタビュー調査を実施した。

(2)専門の研究者へのインタビュー調査
 研修を開発し講師を担当している専門の研究者にインタビュー調査を実施した。

(3)文献・資料の収集
 都道府県教育委員会等におけるいじめ問題防止のための研修プログラムを収集し、各学校で学級担任対象の有効なプログラムを整理する。

3.結果

(1)学級担任へのインタビュー調査
 学校現場ではいじめ問題に関する研修があまり進んでいない様子がうかがわれた。学級担任の裁量に任せられ、一部の関心がある教員しか取り組みがなされていない。また、各種対策は上から押し付けられてきたものとして捉えられている傾向が認められた。

(2)専門の研究者へのインタビュー調査
 いじめ対策推進法は法として明記しているので取り組むことを当然としているが、規制がないため各学校任せになっている。大きな事件をきっかけに定義も変更し、いじめの数にも変動が見られる。近年ではネットいじめが増えているため、その現状把握と教員の対応が課題となっている。

(3)文献・資料収集
 一例として、いじめを早期発見するためにチェックシートを作成・活用し、学級経営に反映させる研修プログラムなどが見いだされた。

4.今後の課題

 いじめ問題に取り組む中で、学校の実情と研修プログラムに差があると考えられる。まずは自校のいじめ問題の取り組みについて見直し、問題を浮き彫りにする。その弱点となる部分を見つけ出し、学校独自の研修を考えていくことが必要である。学級担任が使える指導にしなくては対策だけあっても意味をなさない。
 学校の実情に応じた柔軟な研修プログラムを検討していきたい。

キーワード:いじめ、教員研修、学級経営

≪引用文献≫
(1)国立教育政策研究所 第3章「いじめ問題解決のための教員研修プログラム」
(2)山中一英 対人関係の親密化過程に関する質的データに基づく一考察 1995
(3)岡本淳子 いじめ問題の解決に向けて~中学生に対するグループアプローチ 2001
(4)三浦香苗他:「いじめ」についての学校心理学的研究 研究成果報告書1998