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創価大学教育学会>書庫>2014年 第12回大会口頭発表抄録
口頭発表B-4

学校社会科における授業研究のケーススタディ
 ―「科学の論理」と「子どもの心理」の両面からのアプローチ―

佐藤 克士(共栄大学・教育学部)

I 問題の所在

現在,社会科授業研究は,どうすればこれまでの社会科教育学研究の意義や成果を踏まえつつ,真に理論と実践,研究の目的・理念と教室のリアリティとを結ぶ授業研究の方法論を構築し,それに基づく成果を蓄積していくことができるか,という課題に直面している。これまで社会科教育学研究では,目標・内容・方法を貫く授業構成論を提示し,開発から評価に至る一連の研究過程を論理実証的に説明する「授業開発研究」と,実践の事実を確定し,その分析を通して授業構成論を抽出するとともに,実践と理論のズレを指摘し,改善の手立てを論じる「授業分析研究」の方法論を提案してきた。これらの方法論は,批判可能性を高め,その科学化に貢献した。しかし一方で,学問としての自立や成果としての科学性を重視するあまり,「理論研究が中心で,研究と実践が乖離しているのではないか」という疑問や,「授業構成論にもとづく授業モデルの提案に留まり,子どもの学びの実態等を踏まえ,授業の実践可能性を高めることには必ずしも貢献していないのではないか」等の課題が指摘された。

今,社会科授業研究には,これまでの社会科教育学研究の成果である理論と学校現場における実践とを結ぶ教科教育実践学としての授業研究方法論の構築と,その方法論に基づく成果の蓄積が求められている。本研究では,このような問題意識を踏まえ,上記の課題を克服するための方策を2つの「理論仮説」として提示し,その妥当性を筆者自身の一連の授業研究過程を通して,検証していく。

【理論仮説1】

…批判可能性や科学化に貢献してきた「授業開発研究」の方法論(「授業理論」,「授業構成」,「授業実践」,「授業評価」)を,学校現場の授業研究過程(「研究テーマの設定」,「単元開発」,「授業実践」,「授業評価」)に対応させ,各段階において開発者及び実践者(以下,実践者)の意図を仮説や論理として明示し,それを批判的に吟味・検討しゆく過程として組織すれば,研究としての質(批判可能性や科学性)が担保され,同時に一連の成果を蓄積することができる。

本研究では,実践者が明示する仮説や論理をそれぞれ「研究仮説」,「単元仮説」,「授業仮説」,「評価仮説」と呼ぶこととする。この4つの仮説や論理を研究過程の各段階で明示することで,論理実証性や批判可能性が担保され,科学的な成果を蓄積することが可能となる。

【理論仮説2】

…「単元開発」段階において,学習前の子ども達が「獲得させたい知識(学習内容)」に対して,「どのような認識状態にあるか」を診断的評価で把握し,その成果を組み込んだ授業構成とすれば,研究の目的・理念と教室のリアリティとを結ぶ授業研究の方法論となり得る。

本研究では,実践者側が設定する「獲得させたい知識(学習内容)」を「科学の論理」,また「科学の論理」に対して診断的評価で明らかになる学習前の子ども達の認識状態を「子どもの心理」と呼ぶこととする。

Ⅱ 研究方法

本研究では,まず「研究テーマの設定」段階において,先行研究の現状と課題を整理し,課題を乗り越えるための方略を「研究仮説」として提示する。また,「研究仮説」をもとに「獲得させたい知識(学習内容)」を検討する。

次に,「単元開発」段階において,上記で検討した「獲得させたい知識(学習内容)」に対して,「子どもがどのような認識状態にあるか」を、診断的評価を通して明らかにし,両者のギャップ(課題)を埋める(克服する)ための方策を「単元仮説」と設定し,単元を開発する。本研究では,このような一連の手続きを踏まえて開発する授業を「『科学の論理』と『子どもの心理』の統合による授業開発」と捉え,それが研究の目的・理念と教室のリアリティとを結ぶ授業研究の方法論となり得ることを検証していく。

そして,「授業実践」段階において,開発した単元に基づき,ユニット(小単元)ごとに「授業仮説」を設定し,その有効性を検証し、最後に,「評価仮説」において,開発した単元を通して「獲得させたい知識」を分析視点(設問)として,「授業仮説」や「単元仮説」の有効性を検討し,授業改善の視点を導出する。

Ⅲ 研究内容

当日は,小学校社会科第5学年産業学習単元「日本の水産業」を事例に報告する。

キーワード:小学校社会科,授業研究,科学の論理,子どもの心理,日本の水産業