「自分の意見を生き生きと表現することのできる子ども」-私が、教育実習において目指してきた子ども像である。教育実習で、子どもたちと過ごして感じた課題は、'物事を自分のこととして捉えられる'ことが不足しているのではないかということであった。近年のPISA調査等でも指摘されている通り、子どもたちのコミュニケーション能力の育成は、喫緊の課題である。そこで私は、社会的事象そのものが主体である社会科の学習で、自分の言葉で書く活動によって、思考が深まり、社会的事象と自分の 生活との関連性を考えることができるのではないかと仮定する。子どもたちが社会科の学習により、物事を自分のこととして捉えるきっかけを得て、自ら問題探究へと進む意欲を育む学習のあり方の提案が本研究の目的である。
ダス(1970)によれば、―人間の情報処理(認知処理)過程は、継次処理・同時処理の2つ処理過程に大別することができる。継次処理は、情報を連続的かつ逐次的に分析し、処理する情報処理であり、順序性を重視し、時間的聴覚的な手がかりで分析的に処理する能力であり、同時処理は、情報を概観可能な全体に統合し、全体から関係性を抽出する情報処理であり、いくつかの情報を視覚的な手がかりで空間的に統合し、全体的処理する能力である―と。
この継次処理・同時処理は、主に発達障害児に対する支援のあり方として研究されてきたが、通常学級の子どもたちにも「学びの個性」として捉えることができる。子どもの学びの個性に対して、教師の学びの個性が作り出す授業との関連性を検証することにより、継次処理・同時処理を踏まえた学習のあり方を模索できるのではないかと考える。具体的には、継次処理・同時処理のアンケートを児童・教師に対して行い、認知に対する相違点や共通点を見出していく。
昨年度に行った単元「わたしたちの生活と食料生産」(東京書籍5年上)の授業の逐語記録において、教師の発問と児童の発言のやりとりを、授業中に使用したワークシートの記述の視点から分析していく。先のアンケート結果により、子どもの学びの個性を一人ひとり踏まえたうえで、授業者である筆者の継次処理的な授業・ワークシートの作られ方の関連性を検証し、効果的な部分と課題点を見出していく。
継次処理・同時処理の特質を踏まえたうえで、効果的な学習法としてポートフォリオの活用を提案する。ポートフォリオとは「紙はさみ」という意味であるが、教育評価の文脈で使用される場合は、蓄積される子どもたちの「作品」とそれを入れる「容器」の両方を指して使用されている。また、小田(2012)によれば、言語活動とポートフォリオを融合させることにより、思考・判断・表現がより良く連関できるとしている。思考・判断・表現の流れとしては、一見関係のなさそうな事柄(2つ、3つ)の中につながりを見出す〈思考・判断〉→組み合わせ方が、その子なりの考え方が反映されていてユニークである→思考のプロセス(変遷を調べていく中で、思考が深まり、つながりが見えてくる)を経験する→調べた事柄を対立構造として分析し、共通点・相違点また普遍性を見出し、記述する〈表現〉ことにより成り立つ。本単元を言語活動ポートフォリオに再構成することにより、子どもが主体となって調べ学習を行うことによって、各自が調べた対象に対してそれぞれの見解から物事の本質に向かって学習していくことの可能性を提案する。
キーワード:言語活動、継次処理、同時処理、ポートフォリオ
≪参考論文≫
・ダス(1970) 小田(2012)
・児童一人ひとりを大切にする教育的支援に関する研究-認知特性に応じた支援を通して-(中野2007)
・社会科の指導における思考力・判断力・表現力を育む研究-資料を活用した場面においての言語活動の充実を通して-(山梨県総合教育センター2011)