東日本大震災により引き起こされた福島第一原発事故から2年以上が経過した。事故発生直後の国民の混乱の激しさは言うまでもなく、とりわけ放射能が及ぼす人体への影響について、氾濫する情報に多くの人々が翻弄され、国民一人ひとりが放射能について考える大きなきっかけとなった。しかし、現在では放射能に関連する報道を目にすることも事故直後と比較すると少なくなり、被災地が復興に歩みを進めようとするなかで、放射能に対する国民の関心や問題意識は、多少薄くなってきているように思われる。
原発事故による放射能汚染は、今後長年にわたって、私たちの生活を脅かし続けることになる。私たちは、福島市の現地視察を通して、学校や行政の取り組みについて調査し、今後、教師としてどのように福島の現状を伝えるべきか、また、放射線教育をどのようにしていくべきかを検討した。
研修は平成25年8月21日~23日に実施した。研修での主な訪問先と内容は以下の通りである。
①福島県立医科大学
(放射線と甲状腺がんの因果関係、県民健康管理調査の概要と検査結果の説明等)
②松川第一仮設住宅
(飯館村長からの講話、避難住民との交流と今の生活や帰村についての聞き取り)
③福島市役所、公会堂
(除染の現状と福島市教育委員会による放射線教育への取り組みの説明、除染現場の視察)
④福島市立三河台小学校
(原発事故が児童の心情や学校教育に与えた影響とその実態、学校現場における取り組み)
⑤土湯温泉バイナリー地熱発電施設
(再生可能エネルギー導入のモデル事業の説明と発電施設の視察)
福島市教育委員会では防災教育の充実の施策として、独自で「放射線教育指導資料」を作成し「放射線に対する正しい知識と理解のもとに適切に判断し、行動できる力を子どもたち一人ひとりにはぐくむこと」「福島復興に向けて共に前向きに生きていくことができるようにすること」をめざした取り組みを行っている。指導資料には、具体的な防災マニュアルのモデルや義務教育段階の放射線教育指導事例(指導案)が小学1年生から中学校3年生まで全ての学年で提示されており、24年度の2学期から各学校において活用されている。この指導事例は、文科省が発行した副読本と福島県が発行した副読本の内容を踏まえながら、福島市の児童生徒の現状と課題に沿った内容で、福島市教育委員会が独自に作成したものである。また、放射線教育の学習指導要領における位置づけは、小学校では「安全に関する指導及び心身の健康の保持増進に関する指導」の一貫として、体育科・家庭科・特別活動で「それぞれの特質に応じて適切に行う」としている。また、中学校では、特別活動や理科に位置付けられて実践が行われていることがわかった。
放射線教育の実際と課題を踏まえて、それらを解決していくため、より具体的な実践や指導法について検討することが求められる。また、放射線や原発に関連する事柄のみならず、子どもたちが生活と科学、環境等との深い関わりにおいて今後現れる問題とどのように向き合うか、自らの考えをもち、行動することができるようにする資質・能力をさらに育成していくことが不可欠である。その実現に必要な、教員や教員を志望する学生の意識や指導力の向上をいかに図るかも重要な検討課題である。
キーワード:放射線教育、放射性物質、除染、甲状腺がん、福島市、再生可能エネルギー
≪参考文献≫
・放射線教育指導資料 福島市教育委員会(平成24年8月)