多様な環境が存在する地球で,人間が様々な文化,社会を形成し長きにわたって他の生き物を支配し発展し続けることができたのは様々な要因がある。なかでも環境を科学的に理解し自分たちの生活に最も適した場所を見つけだし,さらに生活に適した状態を作り出すことができたことが大きな要因だと思われる。またそれらは人間が自然と共生しようとしてきた結果である。しかし,急速に発展した科学技術の利用,枯渇型資源の大量消費など人間の生活が生み出す様々な要因から,自然と共生し発展してきた人間が自らの手で地球を破壊してしまう結果となったのも事実である。このような状態は21世紀そして22世紀を生きる子どもたちへの負債となりかねない。これからの社会を担う子どもたちには,科学の発展とともに地球環境との共生つまり「持続可能な発展」を広い視野で考え続けることのできる地球市民として、全人的な成長が必要であると考える。
本研究では「持続可能な発展」を考える授業を小学校高学年の社会科・理科で提案し,子どもたちが自身と環境,社会がどのような関わりをしているかを明確にし,自分たちが生きる未来についてビジョンを描けるようにしたい。本研究では特に自然科学に重点を置き,子ども達自身と自然環境がどの様に関わりを持っているか理解し,そして自分たちの未来までその環境が今後も持続可能かを議論させる。その結果,子どもたちに未来の対する意識が生まれ,また地球に対する関心も生むことにつながると考える。
持続可能な発展とは次の3つの側面の均衡した定常状態のことである。
①自然及び環境をその負担許容量の範囲内で利用できる環境保全システム(資源利用可能の継続)=環境的持続可能性
②公正かつ適正な運営を可能とする経済システム(効率・技術の確保)=経済的持続可能性
③人間の基本的権利・ニーズ及び文化的・社会的多様性を確保できる社会システム(生活質・厚生の確保)=社会的持続可能性
これら3つの側面が均衡した定常状態のことである。本研究ではこの3つの側面の中の環境的持続可能性を中心に授業を提案する。環境的持続可能性を研究するにあたってさらに3つの規則を紹介する。
①土壌・水・森林・魚など「再生可能な資源」の持続可能な利用速度は,その供給源の再生速度を超えてはならない。
②化石燃料・高品位の鉱石・化石地下水など「再生可能な資源」の持続可能な利用の速度は,再生可能な資源で代用できる速度を超えてはならない。
③「汚染物質」の持続可能な排出速度は,環境が「汚染物質」を循環し,吸収し,無害化できる速度を超えてはならない。
今後の研究として上記に示した内容を小学生高学年の子どもたちが理解できるような具体的教材の開発を行う。具体物となる根拠から内容を考察し,自分たちの生活をどのように変えていく責任があるのかといった問いをもとに,社会の意思決定の主体者としての自覚をもたせられるような展開をしていきたい。いずれの場面においても,
①課題に対する最初の意志決定
②意志決定における自身の価値判断の認知
③考えの再構築・深化
④最終的な意志の決定
という学習のプロセスをたどっていくようにする。私たちが「揺るがない事実,真実と思っていることの多くは,実は,社会的な取り決め,制度,人間関係などのなかでつくられている」ものであり,科学的知識すら,ある学問共同体のなかでの一つの記述形態にすぎない。子どもたちにとっての "揺るがない事実,真実" とは,まさに生活の中や学校などで学習したことそのものである。
キーワード:持続可能発展,環境的持続可能性
≪参考文献≫
・矢口克也『「持続可能な発展」理念の論点と持続可能性指標』レファレンス 60(4), 3-27, 2010-04-00
・坂本佳鶴惠「社会構築主義‐社会的事実の客観性を問う」友枝俊雄・竹沢尚一郎・正村俊之・坂本佳鶴惠『社会科学のエッセンス‐世の中のしくみを見抜く‐』有斐閣アルマ,pp82(1996)