中学生の理科離れ・理科嫌いについては、様々な調査・研究がなされているが、いまだに改善されず、大きな課題となっている。しかし、依然として小学生は「理科が好き」という割合が大きい。このギャップは、中学理科の学習内容にあるのではないかといった研究も少なくない。この小中ギャップの原因を探ることは、今後、小中連携校の増加や小中連携カリキュラムを考える上でも非常に重要である。一方で、平成24年度の全国学力・学習状況調査では「理科の観察・実験を行うことは好き」と答えた小学生は89%と非常に高い割合であったのに対し「理科で学習したことは将来役に立つと思う」と答えたのは73%と国語(89%)・算数(90%)に比べて低かった。また、「将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思う」と答えたのは29%と非常に低かった。このことから、小学生は「実験が好き」と思ってはいるものの、その思いは将来へとは繋がるほどの「好き」ではない可能性がある。つまり、試行錯誤しながら実験を進め、その結果を考察し、今まで知らなかった現象や法則を導き出すといった本来の「理科実験の魅力」を感じている児童は少ないのではないかと考えた。この本来の「理科実験の魅力」を感じ、深い意味で「理科が好き」と思えるようになった児童は、中学生になって学習内容が難しくなったとしても、理科嫌いにはならないのではないかと考えられる。よって、本研究では、小学校4・5・6年生に対し、理科実験をどう捉えているかを探るための意識調査を行い、小学生の「理科好き」について考察した。
平成24年11月に町田市立町田第五小学校において、4年生99名、5年生69名、6年生84名、教員19名に対して、理科についてのアンケート調査を無記名で行い、集計・分析を行った。
「理科は好きだと思いますか」という設問に対して3つの学年ともに「思う」「少し思う」の割合が高く、合計で81%を占めていた。しかし、「思う」の割合4年生56%、5年生50%、6年生46%と学年が上がるにつれて減少し、「あまり思わない」の割合が4年生8%、5年生13%、6年生25%と増加していることが分かった。これは、学年が上がるにつれて、学習内容が難しくなり、理科嫌いが増えてしまっていることが考えられる。また、「実験は楽しいと思いますか」という設問に対しては、「思う」「少し思う」が3つの学年の合計で92%となり「理科が好き」と答えた81%より多いことが分かった。このことから、理科が好きだと思わない児童の中にも、実験は好きと答えた児童がいることが分かった。これは、理科が好きと思えない理由が、実験以外の部分にあることを示唆している。その上で「理科は難しいと思いますか」という設問に対しては「思わない」「あまり思わない」の割合が3つの学年の合計で66%であった。このことから、理科が好きと答えた児童の中にも、理科が難しいと思っている児童がいることが示唆された。
5年生に限ってみると「理科は難しいと思いますか」については、「思う」「少し思う」が23%と他の学年に比べて低かった。そして、「自分で実験しなくても教科書を見れば結果が分かると思いますか」については、「思う」「少し思う」が合わせて47%と高く、5年生の約半分の児童が実験の必要性を感じていないと考えられる。さらに、「実験結果を知っているとき、自分で実験しなくてもいいと思いますか」については、「思う」「少し思う」が合わせて26%と5年生の4分の1を占めていた。これらのことから「教科書を見れば結果が分かるので、理科は簡単だ」と思っている児童がいる可能性が示唆された。つまり、教科書の結果を重視し、実験で未知の法則を導き出すという本来の「理科実験の魅力」を感じていない児童も少なくないと考えられる。
さらに、「実験は教科書に載っている結果にならないとダメだと思いますか」という質問に対しては「思う」「少し思う」が3つの学年の合計で25%、「実験が教科書通りの結果でなかったとき、失敗だと思いますか」については、「思う」「少し思う」が3つの学年の合計で28%と、4分の1の児童が実験した結果より教科書に載っている結果を重要視している可能性があると考えられる。
本研究の結果から、小学生の多くは理科実験が好きではあるが、4人に1人は実験よりも教科書の結果を重要視する傾向も見られ、未知の現象を実験によって検証するという本来の実験の魅力が理解できていない可能性があることが示唆された。今後は、理科実験の意義と魅力を理解させる授業を実践し、中学生になっても理科離れしないような子どもを育成していくことが肝要である。
キーワード:理科嫌い、理科実験、小中連携
≪参考文献≫
・『平成24年度全国学力・学習状況調査の結果について』文部科学省2012年