創価大学教育学会

創価大学教育学会>書庫>2012年 第11回大会口頭発表抄録
口頭発表C-3

話し合い学習を可能にする指導方略

矢野 淳一(伊豆市立中伊豆小学校)

1.はじめに

学習者が互いに自分の考えを出し合うことを通して問題解決を図ったり、新たな考えを創出したりする「話し合い学習」の授業を実現するためには、ただ単に学習者同士の意見を表出させるだけではなく、学習者の認識やこだわりを把握し、そのことに即した課題を投げかけたり、学習者同士の認識の矛盾や対立を焦点化して考えを関わり合わせたりする指導方略を意図的に遂行することが重要である。

2.研究方法の考察

(1)研究の目標及び研究方法

本研究では、「話し合い学習」における教師の指導方略を明らかにするために、ICレコーダーとビデオを使って授業内容を記録し、授業の文字起こしをおこなった上で、教師の主観的な授業評価コメントを基礎データとして授業省察を試みたものである。授業観察者と共に授業を振り返り、更に発言内容をカテゴリーシステムによって整理分類することによって、主観から授業評価の客観性を高めた上で授業分析を行った。

しかし、授業における教師の発話は、外見的な記述のみで理解できるものではない。その背景にある授業者の意思決定を考慮しなければ、結果として顕在化する教師の発話行為の理解は不十分である。そこで、教師の内面として、どのような意思決定をおこなっているのかについてもカテゴリーシステムによって整理分類し、その関係性について明らかにした上で、「話し合い学習」における教師の指導方略について捉えようと試みた。

(分析対象授業)

授業1:小学校2年生国語(平成20年11月実施)
「くま一ぴき分はねずみ百ぴき分か」(学校図書)
授業2:小学校2年生算数(平成21年2月実施)
「三角形と四角形」(学校図書)
授業3:小学校4年生算数(平成21年11月実施)
「いろいろな四角形」(学校図書)

(2)分析のためのカテゴリーの設定

授業記録をもとに、「話し合い学習」における教師の発話内容に分析を加え、カテゴリー設定を行った。そして、発話カテゴリーの分類の項目内容として、相槌、指示、言葉掛け、質問、賞賛の5つのカテゴリーを位置付けた。

次に, 内面カテゴリーは、教師がある発話を行った際、どのような意思決定の結果行ったのか、教師の心情をカテゴリーとして分類した。分類項目として、促し、確認、受容、評価といった教師の内面における4カテゴリーの認識や心情を位置付けた。

これらのカテゴリーを,表計算ソフトに記述された授業の文字起こしデータの教師の発話一つ一つに対し,「発話の理由」と「教師の内面」を文章で記述した上で,先に挙げた分類カテゴリーを付与していく。つまり,授業者は,文字起こしした自分自身の個々の発話データに対して,最低4回(発話の理由記入,教師の内面記入,発話カテゴリー記入,内面カテゴリー記入)の解釈を行うことになる。

これらの「発話カテゴリー」と「内面カテゴリー」を「話し合い学習」が成立した授業と成立しなかった授業において付与した上で、カテゴリー分析を行い、その違いについて比較検討を行った。

(3)分析結果の考察

「発話カテゴリー」「教師の内面カテゴリー」の頻度をカウントしたところ,次のことが示された。

a.教師の発話カテゴリー:

「話し合い学習」が成立した授業では「相槌」の頻度が高い。「相槌」は,学習者の考えの共有化を促進すると同時に,教師が学習者の反応やつぶやきを収集する機能を担っていると考えられ,頻度が高いのはそのためであると思われる。一方,成立しなかった授業は「指示」の頻度が高い。教師が授業の流れをテンポよくしようと気負ったため、学習者が発言する際に促しの指示を多く行っていたためである。「話し合い学習」においては、学習者の主体的な発言によって授業が創られる。学習者が主体的に授業に参加するためには、自分の考えを発言したいという学習環境を創ることが重要であり、教師の不必要な指示による促しは、学習者を受け身的な参加者にしたものと考えられる。

b.教師の内面カテゴリー:

「話し合い学習」が成立した授業、成立しなかった授業のどちらにおいても「確認」の頻度が最も高かった。「話し合い学習」では、教師は学習者の認識を把握、確認した上で指導を行っている。しかし、「話し合い学習」が成立した授業においては、学習者の根拠を確認した上で、学習者同士の認識における矛盾箇所に話し合いの視点が絞られているのに対し、成立しなかった授業においては、教師は、学習者の考えの立場と理由を確認することに留まり、学習者の考えのもととなる根拠を見い出すことができず、学習者同士の認識の矛盾を見つけて課題を投げかけることもできていないことが分かった。

3.成果と課題

「話し合い学習」では、教師が学習者の認識を把握し確認した上で、学習者間にある認識の矛盾を捉え、課題として投げかけることによって、学習者同士が新たな考えを創出できることが分かった。今後、更に、授業分析を続け、「話し合い学習」の指導方略を明らかにしていきたい。

キーワード:話し合い学習、教師の発話・内面分析