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創価大学教育学会>書庫>2012年 第11回大会口頭発表抄録
口頭発表A-3

多文化共生におけるアイヌの教育

橋本 隆生(創価大学教職大学院 教職研究科)

問題の所在と研究の目的

ニューカマー(1980年代、特にバブル好況下の80年代以降多くの外国人が日本に流入した。これらの外国人を、在日コリアンを中心とするオールドカマーと区別してニューカマーと呼ぶ)の増加に伴い、出入国管理法が2009年に改訂された。この法律改定以降、「労働力」とみなされていた外国人が「生活者」として「自己実現」を図る「人間そのもの」と認識されることになり、日本は多民族国家であることを前提とした社会への歩みを始めることになった。しかしその一方で日本は「いまだ公的な場で単一民族国家といわれる。」(2010年、常本)状態にあるとされてきた。

改めて述べるまでもなく、ニューカマー到来以前より、日本にはアイヌ民族等の先住民族がおり、その意味で多民族国家であった。こうした状況下において、1997年に「アイヌ文化振興法」が制定され、10年後の2007年には「先住民族に関する国際連合宣言」に我が国も賛成を表明、翌2008年には国会の両院で「アイヌ民族を先住民と認めることを求める決議」がなされた。

筆者は北海道で教員を続ける中、後継者の不足等からアイヌの豊饒な文化と知恵が失われつつある事に関心を抱いてきた。そして学校におけるアイヌの教育が様々な面から期待されている反面、取り組みに地域差が大きいことが明らかになった。過去の同化政策の影響でアイヌであることがいじめの一因となった事例も報告されている。

そこで本研究では「不可避的に多文化、多民族が共生する社会に向かっている」(同:常本)現在の日本において、アイヌの教育を多文化共生の視点から問い直すことを通して、今次の学習指導要領に示される「様々な伝統や文化、宗教についての理解を通して、我が国の国土と歴史に対する愛情をはぐくみ、日本人としての自覚を持って国際社会で主体的にいきる」教育の課題を論考し、その改善への具体的な方途を提示することとした。

研究の方法

  1. ニューカマーの流入によりアイデンティティを求めるマイノリティーの増加など国内における情勢の変化、さらには国際社会の情勢の変化もうけている中で我が国の多文化共生の教育課題を明らかにする。
  2. 同化を強いられてきたアイヌ民族の歴史と文化の経緯を詳述し、これまでのアイヌの教育の経過と課題を明らかにする。
  3. 我が国の多文化共生の教育の課題解決のために示唆を与えると考えられる海外における事例を渉猟し、分析を加える。
  4. 上記の考察を踏まえ多文化共生におけるアイヌの教育の可能性を考察するとともに、具体的な方策を示す。

以上を研究論文・書籍・答申等の文献調査、過去の教育実践の整理・考察等を通して行う。

研究の経過とこれまでの成果

今後の課題

大学院卒業後はアイヌ民族が一番多く存在する北海道において「理論と実践の融合」の視点からさらなる文献調査やフィールドワークなどの理論面の深化と学校現場における教育実践の検証が必要と考えられる。

理論面においては現状を多角的視野から分析するため他国と我が国のマイノリティー政策や教育を比較研究する必要がある。さらには、アイヌについてのフィールドワークも重要になってくる。

実践面においては勤務する当該小学校における社会科と総合学習において理論の検証が必要である。


常本他:アイヌ研究の現在と未来、北海道大学アイヌ・先住民研究センター編、北海道大学出版会、2010、193-222

キーワード:アイヌの教育、多文化共生、ニューカマー、マイノリティー