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創価大学教育学会>書庫>2012年 第11回大会口頭発表抄録
口頭発表A-1

実体験をもとに実感を伴わせる社会科授業の提案
 ―物事を自分のこととして考えられる子どもの育成―

加納 照久(創価大学教職大学院 教職研究科)

I 研究の動機

実体験のないものを考えることほど難しいことはない―'自分の身になって物事をとらえる'営みの重要性は、現代の子どもたちのコミュニケーションの不足を通して、ますます必要とされている。実体験(あるいは追体験)をすることで、子どもたちは初めて自分の身になって考えることができる。子どもへの興味・関心を高めるために、教師は様々な教材の提示や体験活動をしてきたが、それが単に子どもの興味を引くだけで終わってしまうことが多々ある。そこで、実体験により、物事を直感的にとらえることによって、課題に対して向き合う姿勢が身に付いた上で、学習に対する見方が変わるだけでなく、自ら問題探究へと進む意欲へと変えていく授業のあり方の提案が本研究の目的である。

Ⅱ 実体験をすることの有効性

実体験をすることについて、「生活知」として述べる高田教育研究会(2005)は、「身体性(諸感覚の駆使)に基づく活動は、実感や感動を伴い、納得のいく学習になりやすい。自分にとって「確かなもの」を得た喜びと満足感は、私たち人間にとって何物にも代え難い。そこで得られた知識・技能は、確実な定着をみることになる。自分の諸感覚を通した発見や気付きについての「喜び」や印象の度合いは間接体験とは比べ物にならないほど大きい。」としており、実体験によって子どもたちが学習に取り組むことへの有効性を示している。ちょっとした感動や不思議さ、おもしろさ、こわさ、不快感、自身についての価値体験など、生活の場で起こる体験そのものが、日常生活と学校での学習を橋渡しするものと考える。

Ⅲ 教材の価値観

本研究の授業提案として、「戦時下における国民の生活」を取り上げる。学習指導要領解説によると、「我が国がアジア・太平洋地域において連合国と戦って敗れたことを取り上げて調べ,各地への空襲,沖縄戦,広島・長崎への原子爆弾の投下など,国民が大きな被害を受けたことが分かるようにしたりする。」と記されている。

戦争が悲惨さを知る世代は、筆者を含め、どんどん少なくなっている。今の子どもたちからすると、祖父母も体験していない「戦争」というものを、自分のこととしてとらえるにはどうするべきか―実体験(追体験)を通して、平穏な日常生活が奪われてしまうことの怖さを少しでもわかりやすく、自分自身のこととして子どもたちに感じてもらいたい。

Ⅴ 社会科における授業提案

イメージの拡張
 当時の生活と現代の生活を比較するために、子どもにとって身近な日常生活の資料を用いて、その差異について考えさせる

《写真資料》
 ア当時の生活の困窮が分かる服装の写真 (衣)
 イ当時の食事を再現した写真 (食)
 ウ勤労動員が生活の中で多くを占めていることが分かる時間割 (住)

《実物資料》ざつのう・防空頭巾・米、炒り米、釜

《音声資料》空襲警報のサイレン

《映像資料》当時のアニメーション

合科的学習
 総合的な学習の時間(戦争体験の聞き取り)
 家庭科(戦時中の食事-国策炊き・すいとんetc)

Ⅵ 今後の展開

今後の研究として、実際に提案した授業を実践し、子どもたちの学習意欲への効果があったかを検証する必要がある。実体験を伴う実感によって、身の回りに起きている様々な事象について、子どもたちが自分自身のこととしてとらえることができるようになると考えられる。学習においては、子どもたちがより興味・関心を持って、目の前の課題に関して追究して取り組み、日常生活の中では、相手の身になって考える・共感するという行動への一助となれば幸いである。

キーワード:実体験、生活知、合科的学習

≪参考文献≫
・西林克彦編『学習指導の方法と技術』新曜社、2000
・上越教育大学付属小学校・高田教育研究会編 『「知」について考える―体験と知識、そして生活科―』教育創造151号、2005