創価大学教育学会

創価大学教育学会>書庫>2011年 第10回大会口頭発表抄録
口頭発表D-1

算数科の自己効力感に与える影響の一考察
 ―小学4年"わり算の筆算"の実践を通して―

山本 泰寛(創価大学教職大学院 院生)

Ⅰ はじめに

相互依存的な人間関係の中でとる行動が家族、友人、やがては集団に波及し、国家をも動かすエネルギーとなっていくのではないか。バンデューラが自己効力感の概念を提起して以来、教育や医療、福祉及び心理学など様々な分野で研究が進み、多くの論文が執筆されている。バンデューラは「私たちは、もし自分の行為により望ましい効果を生み出すことができると信じなかったならば、行動しようという気持ちにはあまりならないだろう」と述べている。しかし、自己を見つめないまま闇雲で根拠のない見通しを立てるようでは自己効力感は育たない。佐伯は、「自分が外界の変化をもたらす原因となり得ることを学ぶには、まず、自己の可能性に関して、現実的な眼でとらえることを知らなければならない」と論じている。何をどれだけできるのか、またできないのかを適切に見極めることで、明確な自分なりの目標をもつことができる。そして目標に向け行動し達成体験を重ねることで、自己効力感が育まれ、外界に働きかけ、変化をもたらす主体となっていくことができると考える。

Ⅱ 研究の動機

自己効力感(self-efficacy)とは、ある事柄に対し、自分が何らかの働きかけがどれだけできるかという感覚である。自己効力感の育つ要素は、①達成体験、②代理的経験、③社会的説得、④情動的喚起、以上の4点があり、このうち達成体験が大きなウェイトを占めている。また、容易に達成できる体験でなく、粘り強い努力を有する課題や困難に直面することが要求される。

学習指導要領解説算数編では「多少の困難が伴う日常の事象を問題と捉え、解決のために見通しを持ち、筋道を立てて考えることが必要になる」と書かれている。また、算数は計算技能の定着にある程度の練習が効果をもたらすうえ、様々な概念が組み合わさる難問が存在する。本研究では除数が2位数の除法の筆算の学習を通して、自己効力感を育むことができると想定した。

Ⅲ 研究の方法

1 単元名

第4学年「2けたでわるわり算の筆算」

2 指導の工夫

i)考え方の交流

毎回の授業で数名の児童を指名し、発表の論理性に気を付けるよう指示をして筆算の手順の方法を発表させる。発表者と聞く児童のコミュニケーションを通して、筆算の手順をより正確に理解するとともに、達成体験、代理的経験を同時に獲得できると考える。

ii)教具による指導

図1 自作教具

計算の各段階の意味を理解できるようにするため、板書では数字の代わりに黒板に自作の教具(図1)を掲示し筆算のアルゴリズムの指導を行った。また、つまずいている児童にはブロックの操作や、問題を図式化しノートに書かせて作業をさせる。このような算数的活動を通して児童の問題意識が高まり、見通しを持ち筋道を立てて考える手がかりになると考える。

3 自己効力感の測定

福井らが作成した、児童の一般性自己効力感測定尺度(2因子各9項目)を用いて児童の自己効力感の測定をした。測定は単元前、単元後の2回行い、2因子および自己効力感合計の得点を算出し、母集団をクラス全体、男子、女子に分け対応のあるt検定を行った。また、筆者が作成した算数についてのアンケートを同時に実施し、児童の個別の回答の変容を見た。

Ⅳ 結果と考察

クラス全体では、2因子のうち安心感の項目で有意差が見られた。男子は全ての項目で単元前に比べ有意差が見られた。一方、女子の場合は全ての項目で有意差は見られなかった。算数についてのアンケートでは、3つの項目に改善の傾向があったことが示唆された。しかし、男女間で得点に格差が生じたうえ、算数についてのアンケートでは数値が下がった項目も見られたので、今回の実践は課題が残っている。

キーワード:自己効力感,達成体験,バンデューラ