勤務校の子供たちに「自分に自信を持ち意欲的に取り組んでほしい」と願い,授業で,認め合い,役割を与え,ほめる場面を増やした。しかし,その教科や単元の中では自信を持って取り組むものの,このような環境がなくなった途端に自信を失う様子が見受けられた。一時的に自信を高める手立てではなく,より永続的に自信を持ち続けることのできる手立てが必要だと感じた。では,自尊感情とは何か,また自尊感情を育むための共有体験について説明し,教科指導における共有体験の導入について述べていく。そして実際に導入した授業実践を紹介する。
近藤(2007,2008)は,「自尊感情には基本的自尊感情と社会的自尊感情という,二つの領域があると考えている。基本的自尊感情(Base Self Esteem:BASE)は,他者との比較や,自らの欲求との関係抜きに,自分自身をあるがままに受け入れる感情である。社会的自尊感情(Social Self Esteem:SOSE)は,他者との競争や勝負に勝った時に高まり負けたときに下がるような相対的な評価に基づく感情である。」
つまり,基本的自尊感情は,幼少期における養育者の受容や承認によって形成され,それが自尊感情の基礎的な部分ととらえている。そして,それを土台にして他者比較によって高まったり,低下したりして変動する部分が社会的自尊感情である。近藤は基本的自尊感情を育むことに着眼し,幼少期の頃に形成される基本的自尊感情を共有体験という手立てで形成することを考えている。
近藤は,幼少期を過ぎた発達段階である小学校でもクラスの友だちや教師と共有体験を意図的に行い,基本的自尊感情を育むことを考えている。具体的には,まず,身の回りのさまざまな場面で生じる多様な感情を共有する機会をつくる。その共有とは,ある課題について考えたことの共有よりも,考える過程での共有が大切であるとしている。課題を与えられて,それについてわからないと悩んだり,反対に答えを発見して驚いたりする感情の共有である。「問いを発してから仮の解答に到達するまでの心の動きの共有化」が重要で,特に肯定的な共有体験を重ねることで,自分の感じ方は間違っていない,自分はこれでいいのだという,基本的自尊感情の基礎が作られていくと近藤は考えている。
教科指導において共有体験を導入するために,どのような学習課題に取り組むかが重要と考える。
共有体験を実現する学習課題の条件として,一つに,子供一人ひとりの学習状況(知識・技能・経験)が異なっても対等な関係で望めること。二つに,意欲を持って取り組めること。三つに,自分ひとりで簡単に答えが出てしまう学習課題でなく,共に考えなければできない,または,共に考えることで新たな考えが生まれる学習課題が必要である。これらの条件を踏まえたうえで,同じ学習課題を共に考える過程で,共有体験を積み重ね,基本的自尊感情の基礎を育むことができると考える。
東京都のT小学校の第2学年40名,第6学年29名。
算数「分けた大きさを表そう」
国語「宇宙時代を生きる」
今回の実践で共有体験とは,体験の後に感情を共有する場を設けるのではなく,体験しているまさにその瞬間に出てくる感情を共有することだとわかり,そのためには課題提示が大変重要だと考える。その上で国語科では設定した学習課題が共有体験を実現するのに,適していたことが授業分析で理解できた。
今後は,教科指導において共有体験を導入する際,共有体験ができるような課題、形態を考えたい。特に単元や教材の特性を見抜くための教材研究のあり方を考え,それに合致した学習課題を徹底した子供理解のもと模索し続けたい。
キーワード:自尊感情,共有体験,教科指導