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創価大学教育学会>書庫>2011年 第10回大会口頭発表抄録
口頭発表A-2

公立小中一貫教育の意義―社会科教育の視点から―

小山 翔(創価大学教職大学院 院生)

Ⅰ はじめに

筆者は本教職大学院における「実習研究」を、東京都内の「施設一体型小中一貫校」で実施した。9年間の義務教育全体を見通した「小・中一貫教育カリキュラム」に基づく教育活動が行われ、小学部・中学部の教員がティームティーチングで授業を行う「協力授業」や、小学部・中学部の児童・生徒が一緒に学ぶ「交流授業」などの実践が積み重ねられている。

小中一貫教育に関する研究も、徐々に蓄積されている。先行研究を大別すると、小中一貫校における学校経営の視点からの分析と、特定の教科・領域に特化した研究がある。しかし、それぞれの研究の接点が乏しく、別々に研究されている傾向が強い。小中一貫教育の利点を活かし、学習指導を充実させる方策を見出すことが、本研究の大きな目的である。

本稿では小中一貫教育の現状について分析するとともに、筆者が専門教科として実習校で実践を重ねてきた社会科教育の視点から、小中一貫教育の意義について考察する。

Ⅱ 公立小中一貫教育の現状

公立の小中一貫教育は2000(平成12)年から始まり、実際に小中一貫校が開校となったのは2006(平成18)年以降である。小中一貫教育は特定の都道府県に限らず全国的に広がり、それ以後は毎年のように小中一貫校の開校が続いている。2005(平成17)年に出された中央教育審議会の答申「新しい時代の義務教育を創造する」では、それまでの「小中一貫教育などの取組の成果」を踏まえ、「9年制の義務教育学校を設置すること」や「カリキュラム区分の弾力化」について検討することが打ち出されている。

一口に小中一貫教育といっても多様な形態がある。小中一貫校には大きく分けて「施設一体型」と「施設分離型」の2種類があり、その他にも緩やかな小中連携教育を行う「施設別の小・中学校」も存在している。また、小中連携教育に市全域で取り組む自治体も増加傾向にあり、小中一貫校が小中連携教育の意義や効果を発信するセンター的な役割を担っている事例も多い。

小中一貫教育が拡大している背景には、近年学校現場で表面化してきたいわゆる「中1ギャップ」の問題がある。小学校を卒業して中学生となった子どもが中学校での学習や生活に適応できず、不登校やいじめの増加につながっていると指摘されている。従来の「6・3制」の区分を絶対視せずに、子どもの発達段階に配慮した「4・3・2制」のカリキュラムが導入されるなど、小中一貫教育による新たな試みが始まっている。

Ⅲ 社会科教育における小中連携

いわゆる「中1ギャップ」を引き起こす原因の一つとして、小学校と中学校の学習環境の違いが挙げられる。一般的に、小学校では子ども同士の話し合いなど活動に重点が置かれている。一方、学習内容の系統性がより強調される中学校では、教師が書く板書事項をノートにまとめる授業が多く見られる。こうした学習環境の違いは、そのまま教師の学習指導と直結している。本来は一貫性があるはずの社会科の授業に、子どもが乗り越えるのに苦労する"ギャップ"が、教師の指導方法によって作り出されている面も否定できない。

子どもにとって、社会科の学習は小学校で一度完結し、中学校では新たな学習スタイルを身につけなければならない。その結果、中学校での学習の土台となるはずの小学校での学びが断絶してしまい、いわゆる「中1ギャップ」として表面化してきている。

社会科教育における小中連携の眼目は、教師が小学校と中学校の学習内容の一貫性・関連性を意識し、子どもの学びがスムーズに移行できるようにすることである。まずは互いの指導の特質を理解するところから始め、授業実践の交流を継続的に行うなど、双方が見通しをもって実践できる取り組みが必要となる。これらの課題を克服するために、教科間の小中連携を促す小中一貫教育は有力なアプローチとなる。

Ⅳ 本研究における今後の課題

本稿の冒頭でも述べたが、小中一貫教育に関する研究は学校経営の側面から論じられるものが多い。他方、社会科教育研究は長年の蓄積があるものの、小中それぞれの校種のみに限定され、小中連携の視点を欠いているものが少なくない。本研究では、小中一貫教育の中身を構成する一要素として、社会科教育における小中連携を効果的に実現する方策を探究した。その意味で、多種多様な実践が積み重ねられている先進校の取り組みに目を向けることが不可欠である。その上で、独自性を高めるために筆者の「実習研究」中の社会科の授業を材料として、自身の実践の省察や小中連携を意識した授業構想など、学校現場に根差した研究に取り組むことを目指している。

キーワード:小中一貫教育、社会科教育、小中連携