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創価大学教育学会>書庫>2010年 第9回大会ポスター発表抄録
ポスター発表E-2

―牧口常三郎の提唱した「郷土科研究」の可能性を探る―

水林 順子(創価大学教職大学院 教職研究科)

はじめに

 約60年振りに教育基本法が改正され、平成23年度から新学習指導要領に基づく教育課程が実施される。まさに今、戦後の日本教育史において新たな変革期を迎えようとしている。また今回の改正においては、特に学力の要素として学習意欲が明確に位置づけられた。 本論文では、児童が自発的に“生きる力”を養うために、現在の教育現場の問題点を明らかにし、その新たな打開策として「郷土科」という学問の必要性を述べたい。「郷土科」は牧口常三郎が提唱した『教授の統合中心としての郷土科研究』に詳細が記されている。牧口の思想は現代の教育現場に新たな光を照らすものと信じ、牧口の著書『教授の統合中心としての郷土科研究』の可能性を探る。

1.牧口常三郎と『郷土科研究』

 牧口常三郎は1903年、人間の生活と地理との関係を論じた『人生地理学』を32歳で発刊。この書は牧口の代名詞とも言える有名な著書である。そして、この『人生地理学』に次いで、牧口常三郎の第二番目の著書が『教授の統合中心としての郷土科研究』である。『人生地理学』の9年後の1912年(牧口当時41歳)に発刊されたのである。牧口はこの著書の中で、第一に、初等教育のカリキュラムの根本的な改革を論じている。第二に、これと関連して授業過程の基本的な改革を提唱している。また、この著書はだれしもがもつ「郷土」という生活の場に基点をおいた教育実践の創造を提唱する画期的な教育書でもある。

2.生活科と総合的な学習の時間

 今から約20年前の平成元年3月に告示された学習指導要領で教科の改変がなされた。この改訂は戦後40年にしてはじめて教科の改廃がなされた。これを期に、小学校低学年には生活科が新設された。生活科では、具体的な活動や体験を重視し、自立への基礎を養うことをねらいとしている。

 また、今から約10年前の平成11年には小学校・中学校・高等学校で総合的な学習の時間が創設された。総合的な学習の時間は変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることなどをねらいとしている。総合的な学習の時間は、生きる力の育成を目指し、教科などの枠を超えた横断的・総合的な学習を行うところに特徴がある。

3.『郷土科研究』の可能性

 牧口の言う『郷土』とは、「生活の場」のことである。そして、「郷土科」とは、郷土という環境を教材とした教科である。牧口は、子どもたちに価値創造の幸福生活を指導するには、三つの段階を経る必要があると述べている。(創価教育学体系ⅣP187~P188)第一に、子どもたちに何気ない自分の生活をよく観察させ、認識をさせることであり「生活の場」を見つめることである。第二に、直観を正確に認識・評価するために諸教科を学ぶこと。第三に、実際の生活において価値を創造することが出来ることを目指している。つまり、自身の直観や学んだことを「生活の場」に応用することである。牧口は「郷土科」を教育のスタート地点として位置付けるとともに、専門的に扱う他の教科を経て、再び「郷土」=実生活へ戻し、応用効果を重視したのである。こうした一連の流れの中で行われる牧口の「郷土科」は現在の学校教育で言われている習得・活用・探究を取り入れた学習提供が可能だと考える。

4.今後の課題

 牧口の郷土科を現代の教育現場に導入するためには時代の変化に伴った価値観の違いや現教育の法規等の観点を無視することはできない。牧口の郷土科をそのまま現代の教育の中に取り入れるためには工夫が必要である。また、著書の中では、具体的な細目案が詳細に書き示されている。今後、この細目案に記載されている内容を小学校の現場で実践して研究を進めたい。そして、牧口の郷土科が初等教育に新たな光が射すことを期待する。

キーワード:牧口常三郎、郷土科研究、生活