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創価大学教育学会>書庫>2010年 第9回大会口頭発表抄録
口頭発表D-1

総合的な学習における体験活動先からのインパクト評価の意義
 ―サービス・ラーニングの視点から―

三上 香(創価大学教職大学院 大学院生)

はじめに

 新学習指導要領では、学校における体験活動・体験学習の意義を強調した前学習指導要領の理念を継承し、発達段階に応じた体験活動を推進している。体験活動の充実を図るには、児童の学習を支援してくれる場や人が不可欠であり、学校は地域・家庭との連携にあたって互恵的・継続的な関係が望まれる。現在、各学校において、地域の資源や人材を活用し、様々な体験活動を展開している学習の一つに「総合的な学習の時間」がある。

 本研究は、特にこの総合的な学習の時間において実施されている児童の体験活動の受け入れ先となる関係諸機関が、どのようなインパクトを受けているかに着目した。インパクトとは、児童の活動によって起こった変容・変化のことである。

 本研究の着想に至った経緯として、筆者の実践と、アメリカの学校の教育プログラムに導入されている“サービス・ラーニング”(以下SL)の視点が参考となっている。筆者は、実習研究の中で、都内の小学校、5年生33名のクラスの総合的な学習の時間を担当した。(平成22年4月~6月)その際、招聘したゲストティーチャーや、ボランティアとして児童の学習支援をしてくれた大学生が、児童にインパクトを与えるとともに、児童からもインパクトを受けていることがわかった。そこで、児童の体験活動先にとって、どのようなインパクトがあったかフィードバックをもらい、それを児童の学習の改善や、家庭・地域の関係の維持向上に生かすことができないかと考えた。

 このようなことから、SLの視点から、学校現場には体験活動先からのインパクト評価が必要とされているだろうとの仮説をもとに、文献研究と教育関係者に対してインタビューを実施した。本稿では、その分析を通して、学校現場や活動体験先の実態・ニーズとインパクト評価の意義を明らかにすることを目的とする。

1、 インパクト評価

 ここでは、ある教育プログラムにおいて、児童が体験活動先にもたらした直接的変化、影響、効果のことを「インパクト」と定義する。「インパクト評価」とは、体験活動先にどのようなメリット、デメリットがあったかを評価(Evaluate)することを指す。

2、サービスとラーニングの関係

 SLとは、サービス(社会貢献〈奉仕〉活動)とラーニング(学習)という2つの概念の複合であり、それは、サービスの体験の上に熟慮された準備と振り返りの機会があることを成立要件としている。SLの定義は多くの文献に示されているが、全米SL情報センターでは、「SLは、その活動がサービスの受け手と提供者の双方に変容をもたらすという意図をもって、サービスの目的と学習の目的を結びつけるものである」と定義している。SLの言葉や概念の提唱者であるシグモンが示した、サービスと学習の関係の概念整理の図によれば、体験学習においても、「サービスの受け手と提供者の双方に変容」があることを示している。

3、研究の方法

1)文献研究
○SLについての日本国内における実践事例や先行研究資料の参照・検討
○総合的な学習の時間における体験活動の実践事例、家庭・地域との連携の在り方についての資料、体験活動先からのインパクト評価にかかわる先行研究の参照・検討

2)フィールドワーク(インタビュー調査)
【対象】 SLをカリキュラムとして実施している大学や高校、及び家庭・地域との連携や総合的な学習に積極的な東京都内の小学校の教育関係者
【実施期間】 平成22年6月~10月

まとめ

 インパクト評価に値する実践をしている学校は数としては少なかったが、児童の体験活動先やコーディネーターの話からは、インパクトと言えるような多様なメリットを受けていることが確認された。インパクト評価の在り方については、今後さらに検討する必要があるだろう。

 本発表では、インタビューによって得られた教育関係者の「語り」を分析し、まとめたものを提示する。そして、インパクト評価そのものの意義や、評価を行うことの意味について検討する。

キーワード:インパクト評価、サービス・ラーニング、体験活動