平成20年1月の中教審答申の中で,理科の改善の具体的事項として「理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会をもたせる観点から、実社会・実生活との関連を重視する内容を充実する。また、持続可能な社会の構築が求められている状況に鑑み、環境教育の充実を図る方向で内容を見直す。これらを踏まえ、例えば、第1分野の科学技術と人間,第2分野の自然と人間についての学習の充実を図る。」とある。そこで本研究では、中学3年理科の単元「運動とエネルギー」、「科学技術と人間」において、科学的に考察し判断する態度を育て、自然科学への総合的な見方を養うための教材を、環境教育を視野に入れて開発したい。その際、生徒が直接体験できる装置として、低温度差で作動するスターリングエンジン模型を用いる。
理科における環境教育は、さまざまな領域からのアプローチがあるが、桐山は「理科における環境教育教材は、生物・化学・地学に多く物理では教材・実践例ともに少ない。しかし、物理で行う環境教育では、物理法則(熱学第1則、第2則)の理解から自然環境についての自然環境についての統一的認識へと広げる独自な実践が可能である。」と指摘した。このことを中学校理科にあてはめると次のように考えられる。
自然環境の保全というと「生命」領域である動植物の生態や、「地球」領域の地球温暖化等大気の状態がよく扱われる。また、「粒子」、「エネルギー」の領域では、太陽光、水力、火力、原子力等のエネルギー資源の有効利用という観点で論じられ、エネルギー資源に関する自然法則と技術の関連を追究する実践は少ないのが事実である。物質循環・エネルギー循環は環境教育の重要な考え方であり、エネルギーの有効な活用を考えるのであれば、中学校理科で学習する仕事とエネルギーの概念をもとに、物質循環・エネルギー循環の視点から科学技術そのものを検討することは重大な教育的視点ではないだろうか。
スターリングエンジンは、1816年スコットランドの牧師、ロバート・スターリングが蒸気機関に対抗して発明した熱機関である。このエンジンは温度差を作り出せば動くので、様々な熱源の利用が可能である。また、低温度差型のエンジンを製作することも出来る。そのため、温排水などの現在捨てられている熱を利用する方法の一つになる。ガソリンやディーゼルエンジンが発明されてから主流ではなくなったが、地球や環境を考えたとき、未来型のエンジンとして、今また注目されている。そこで、スターリングエンジンを本研究で用いることにした。
平成21年度、筆者の所属する横浜市中学校教育研究会理科部会A研究部会では、スターリングエンジンを「運動とエネルギー」の単元で活用し、「生徒一人ひとりが探究し、表現する力を育む教育課程の研究」を行った。この研究では、①「学習活動にホワイトボードを活用した『国語力および学習の基盤能力の育成』『コミュニケーション能力の育成』等の言語活動の充実」、②「原理や法則の理解を深めるためのものづくり」を授業の重点ポイントとした。
本研究では、教材の特性をさらに生かし、「運動とエネルギー」の学習後に、スターリングエンジンを用いた実験を行わせ、「科学技術と人間」につなげた学習活動を提案する。そして、教育上の見通し(基本的な仮説)を次のように立て、その仮説は、実践によって検証されるものとする。
スターリングエンジンは、生徒がそれまで学んできた熱機関とは大きく異なる。ガソリンエンジンなどと比較をしたり、科学技術の発展の歴史を調べたりすることで、理科学習で得た知識と調べることで得た知識が組み合わされる。さらに、環境によいとはどういうことか、これからどのような社会を構築していくのか、などを考え発信していく広がりのある活動を通して、科学的に考察し判断する態度、事物を総合的に見たり考えたりする態度を養うことができると考えている。
その中で、物質循環・エネルギー循環の視点から科学技術そのものを検討することも行わせたい。
キーワード:科学技術と人間、環境教育、スターリングエンジン