わたしの勤務校では、子供たちの間で「どうせ自分なんかできない。」「無理。」という言葉がよくとびかっていた。あきらめがちで自分に自信のない子供たちが多く見受けられた。その現状を目の前にし、何ができるかを考えたときに「もっと自分に自信を持ってほしい。」「ありのままの自分を大切にしてほしい。」と思い、自尊感情を高めていきたいと考えた。2006年OECDのPISA調査では自己認識尺度を図る質問紙で、学習に関する能力についての一般的な自信の程度を測定しているのだが、日本は6項目すべてでOECD平均を下回り、自信の程度が低かった。また、平成15年度の厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究)の一つである「健やか親子21推進のための学校における思春期の心の問題に関する相談システムの構築」で小学生版QOL尺度の調査からも日本の子供たちの自尊感情が低いという結果が出た。自尊感情が低いのは私の勤務校に限らず、今の子供たちの課題でもあると感じた。このような現状を踏まえた上で実践事例を振り返りながら自尊感情を高めるために今後の展望を示したい。
古荘は自尊感情を、『すべての要素を包括した意味での「自分」を自分自身で考えるという意味』としており、自尊感情の肯定的な面は「自信、積極的、有能感」と表現でき、否定的な面は「劣等感、消極的、無力感」と表現できるとしている。梶田はこれらを「自己評価的な意識」と総称している。自己評価的な意識のレベルは日常生活の中での課題などによる成功・失敗体験、その課題などがどの程度周りから評価され、承認されたかという承認・否認体験から形成されるという。しかし、何をもって成功と判断し、どのような場合に評価されたと感じるか個人の内的枠組みによって決定されるため、極めて主観的であると論じている。そのため、自尊感情は自分自身の良い点、欠点も含め、ありのままの自分自身を受け入れることのできる状態がよいと考える。その状態を育むために学校でできることは、その子自身をあるがままに受け入れ、心の居場所を作っていくことだと考える。そのために有効な手立てとして話し合い活動を取り入れたい。子供たちの本音や願いを引き出せるような話し合い活動を繰り返すことで、ありのままの自分自身を受け入れてもらえたと感じ、また、自分たちの話し合いによって解決できた体験は成功体験につながると考える。
(1) 児童の実態
担当学年は第3学年で上記に示したように全体的に自尊感情が低い印象を受けた。平成20年学習指導要領において言語活動の充実が求められていることから、この年の本校の人権教育重点課題として①あらゆる教育活動の場を通してコミュニケーション力を高め、仲間とつながりあう学級・学年集団づくりに取り組む。②自尊感情を育てる。とあった。今回の図画工作の実践例では、まずは、自分の作品を認めてもらえる場を設け、そのあとで話し合い活動を取り入れ、互いのよさや感じ方の違いを認め合い、それによってコミュニケーション力を高め、自尊感情を高めたいと考えた。
(2) 単元名
図画工作 「ひみつきちをつくろう」
(3) 単元計画(全10時間)
下絵の発表会で自分の発表を聴いてもらい、目に見える形でメモにコメントを書いてもらうことで子どもたちは自分の作品を認めてもらえたと実感していた。ただ、今回メモに書いてもらったのは良い点しか書いておらず、話し合いも極力、子供たちの願いを尊重して行ったため、「実際にできるのか」「この絵は空想すぎるのではないか」というような現実的な面に目を向けなかった。マイナス面も含めて自分自身だと受け入れることが理想だと考えると今回の実践は課題が多い。
キーワード:自尊感情、話し合い活動