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創価大学教育学会>書庫>2010年 第9回大会口頭発表抄録
口頭発表C-1

メタ認知が運動有能感に及ぼす影響についての一考察
 ―小学校第6学年のマット運動の実践から―

澤田 崇明(創価大学教職大学院 教職研究科)

Ⅰ.はじめに

 デシ(1999)は、「内発的動機づけは、豊かな経験、概念の理解度の深さ、レベルの高い創造性、より良い問題解決を導く。」と考察している。L.デシは、このように内発的動機づけから起こる行為は成長につながるとし、この内発的動機づけを高めるには有能感を高めることが重要であることを示している。これをもとに、岡澤らは運動場面における自信を運動有能感とし、小学校学習指導要領の体育科の目標である「生涯にわたって運動やスポーツを楽しむ態度を身につける」ためには運動有能感を高めることが必要であると考察している。

 一方で平成20年度小学校学習指導要領(体育編)の改善の基本方針にあるようにコミュニケーション能力や論理的思考能力を育成することも求められている。こういった能力を育成するにはメタ認知をすることが重要であるといわれている。また伊藤はメタ認知過程を経ることで学業成績が向上することを報告している。

 以上のことから本研究ではメタ認知過程を経ることで技能の向上につながり、運動有能感を高めることができると考え、第6学年のマット運動の運動有能感を高める授業づくりを目的とした。

Ⅱ.方法

(1)単元名
 器械運動領域 「マット運動」
(2)授業の実施(メタ認知過程)
ⅰ)教え合い
図1:教え合いの位置
 練習時間においては教え合いをすることとした。その際に、図1のように運動を前から見る児童と横から見る児童を常に配置させて、運動している児童の課題を見つけ毎回話し合うように指示した。これによってコミュニケーションを通しながら、技の習得に対しての自他共の課題が明確になると考えた。
ⅱ)学習カード
 練習では、自分が相手に教えた内容を自分自身の練習に対しても意識させることで技の理解を図った。これを毎回の授業の終わりに学習カードに記入させた。これによって技を大きく、また美しくするための個人の課題とグループの仲間の課題がどこにあるのかを認知し、論理的な思考が身につくと考えた。
(3)運動有能感の測定
 岡澤らによって作成された運動有能感測定尺度(3因子各4項目、全12項目)を用いて児童の運動有能感を測定した。測定は単元前、単元終了後の計2回行った。

Ⅲ.結果及び考察

図2:運動有能感合計変化(単元前-単元後)
 授業では、まずすべての技の系統と技のポイントを細かく指導した。その際に、技の系統ごとにある共通点と相違点を明確にした。
上記のように教え合いをしながらの練習と学習カードの記入を重ねていくうちに、練習中の発言において、技のポイントを指摘し合う割合が多くなった。このことから、相手に教えたことと教えてもらったことを言語化することで自分と相手に課題の原因がどこにあるのかを認知(メタ認知過程)することができたと考えられる。また単元の後半では、技ができる児童と自分比較し、アドバイスをもらう場面も見られた。これは運動技能を自発的に向上させようとしていることと論理的な思考を展開していることが考えられる。
またクラス全体として、技のレベルや習得した技の数は上がっていたことから、学業成績(運動技能)は向上したことは見受けられた。これに加え図2のようにクラスとしての運動有能感の合計の平均点が1.92点上がっていたことから内発的動機づけも僅かだが高まったと考察できる。

キーワード:運動有能感、メタ認知、マット運動