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創価大学教育学会>書庫>2010年 第9回大会口頭発表抄録
口頭発表A-4

問題行動への対応~キレやすい子どもを支援する視点~

佐藤 正(青森市立三内西小学校)

Ⅰ 小さな衝突

 ある授業前の出来事。授業始めのチャイムが鳴っても,U君とT君の口論は続いている。「チャイムが鳴りました。口を閉じます」と教師の指示。「だって…」と釈然としない様子のU君。「口を閉じます」と語気を少し強める教師。「先生,U君が後ろを向いてT君を睨んでいます」と,新たにY君も加わり,事態はますます混迷する。「口を閉じます」と更に語気を強める教師。指示の言葉を繰り返す毎に,教師の怒りの感情が語気に表れる。

Ⅱ 教師の怒りの感情

 紹介した出来事は,どの教室でも日常的に見られる光景と思う。しかし,このような些細な衝突がすぐに収まる教室とそうでない教室がある。その要因は,この問題場面に関わる子どもの特質,教室の風土,教師の価値観に基づいた問題場面への関わり方など多様であろう。
 とはいうものの,キレやすい子どもや発達障害を抱えた子どものいる教室では,困った事態の頻発と,収拾に努める教師の強い指示,注意や叱責がより多く聞かれる。にもかかわらず,効薄く,困った事態の日常化に悩む教師は少なくない。
 このことは,教師の感情の高ぶり(ときには怒り)が,キレの増大という状況に深く関わっているのではないかと思わせる。同時に,強い指示や注意には,怒りの火種が組み込まれているという認識を強くさせる。
 本稿では,問題場面が生じた際に,「教師の強い指示や注意が事態の収拾を困難にする」ことについて考察する。更に,思い通りにならない子どもに対して,教師が感情の高ぶりや怒りを抑えながら,子どもに教師の気持ちを伝えることの重要性について述べたい。

Ⅲ 感情の高ぶりを抑える

 発達障害の子どもにとって,視覚的な手段が有効であることはよく知られている。筆者は子ども達に静かにして欲しい場面で,「静かに」と書いたイラスト付きのカードを見せることで気持ちを伝えている。その際,指示や注意の言葉は発しない。
 当初,子ども達が予想外のスムーズさで静かになる様子に驚いたものである。そして,言語手段で伝えるよりも視覚手段で伝える方が,はるかに効果的かつ穏やかに注意を促していることを実感したものである。同じような手段としてハンドサインよる合図,筆談等が考えられる。いずれも,ノンバーバルコミュニケーション(非言語的コミュニケーション)である。
 ここで強調したいのは,問題場面への関わりにおいて,非言語的指示は教師の感情の平静を保つうえで,言語的指示よりも有効な手段であるという点である。更に,この教師の平静こそが,キレやすい子どもへの低刺激を保ちながら指示や注意を伝えるうえで,重要な要素であるという点である。

Ⅳ 教師が平静を保つ取組

 上述のことは明白のように思えるが,いっそう自覚する必要があると考える。実際に困った場面に遭うと,一方では,強い叱責や注意で子どもを刺激し,子どもを更に興奮させるケースが少なくない。他方,クールダウンさせる場所の確保,子どもの感情をいったん受容する,立って考えてもらう,深呼吸するなどで子どもが落ち着くケースも紹介されている。後者の支援には,問題場面に関わる際に「教師自身が平静を保つための要素」が組み込まれている,と筆者は考える。
 教師が可能な限り平静を保つには,教師自身の人間性や資質に負うところが大きく,教師自身の人格の陶冶が欠かせないことは言うまでもない。そのうえで,キレやすい子どもへ指示や注意を促す際「教師が平静を保てるかどうか」という視点は,キレやすい子どもに対する支援策を検討,開発する際の有益かつ重要な視点であると考える。

キーワード:特別支援,問題場面,ノンバーバル

参考文献
品川裕香:心からのごめんなさいへ
平木典子:アサーショントレーニング