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創価大学教育学会>書庫>2010年 第9回大会口頭発表抄録
口頭発表A-3

若手教師の力量をつける過程に関する一考察
 ~実践力向上のための指導で見えてきたこと~

佐久間 洋子(座間市立旭小学校)

1.はじめに

 団塊の世代の教師の退職により、急速に世代交代が進んでいる。従来のようにベテラン・中堅・若手教師で学年集団を構成できない現状のなかでも、若手教師の育成は急務である。現職教員への研修等の機会もあるが、力量の向上を図る取り組みは十分とは言えない。このような問題意識の中、私が研究している「描写レヴュー(複数の教員による子どもなど対象者の見立て会議)」を応用し、若手教員の成長の過程を見るにつけ、ある所見に至ったので、その一端をここに示したい。

2.若手教員が養うべき実践力

 これまで「描写レヴュー」の手法を用いて、若手教員への指導助言に関わった。その過程において、若手教師は次の4点の「実践力」(実践的な力量)をつけて伸びていった。

(1)自ら学ぶ力

 初めての1年生担任で、これまでの中・高学年児童への言葉かけでは通用しないことに驚愕したA教師は、校庭に出る安全指導で、私の「コンクリートは歩きましょう。土は走っても大丈夫。」という助言に驚く。低学年には、詳細な準備と理解できる言葉かけが何よりも大事であることに気づいた。このようなことから、A教師は、基本からの学び直しを決意する。

 私は今までの経験から、専門とは言えないまでも追求したい研究テーマを早い時期に持つことが大切であると、多くの若手教師に話してきた。優れた授業実践や大学での講義に進んで参加し、日々葛藤しながら向上心を持ち続けるA教師に変容していった。

(2)子どもを観る力

 B教師は、発達障害をもつ子の言動に関して、私を含めベテラン教師からの自分とは異なる見方や思いもよらぬ指摘に、子どもの見方が変わった。自分がその子どもに、「出来ていないこと」ばかりを指摘していたことを振り返ることができ、「努力を認める」対応へと変化が生じた。「その子を生かした学級づくり」が目標になった。

 個々の内面をどこまで理解しているかが学級経営の出発点になる。そのためには、授業中はもちろん、学校生活全般から児童のありのままの姿を観察する努力が欠かせない。小学校は学級担任制であり、子どもを知る場面の確保は比較的容易な反面思いこみと独善的な判断に陥りやすい。ここに気がつくことが、「描写レヴュー」(その子の特質に迫る観察と意見交換で、眼前の子どもを観る目を養う)の良さである。

(3)人と関わる力

 「描写レヴュー」にあたるベテラン教師は、失敗や苦戦したエピソードをできる限り伝え、そのときの具体的な手だてを共に考える。特に、「あの子は、何故今、そうしたのか。」と常に好奇心をもつ助言をした結果、その背景にある家庭状況や保護者との接し方について、先輩教師からの情報を生かした対応が見られるようになった。

(4)実践を振り返る力

 若手教師が自身の授業をはじめとする実践を振り返るには、意欲を喚起させるベテラン教師からの触発と、本音で意見交換される関係づくりの場が大切になる。これが、「描写レヴュー」である。表面的な、当たり障りのない感想で終止する「振り返り」の場ではないのである。

3.おわりに

 若手教師の育成を個人の取り組みに終わらせず、学校全体に広げるためには、「描写レヴュー」という方法が有効であることが明らかになった。教師にとって、共に学び合う場が必要なのである。「子どもにとっての最大の教育環境は、教師自身である」という、創立者の言葉がある。教師が皆で、子どもを理解するために時間を使わなければならない。そのために、時間の確保と管理職や先輩教師の意識改革が求められる。

キーワード:若手教師の育成、「描写レヴュー」、振り返り