本研究は、通信簿に関する児童へのアンケート調査と教員への取材の結果から、日常の教育活動に与える「通信簿」の影響を知り、小学校段階におけるこれからのエバリュエーション(=教育評価)の一例を模索することを目的とする。
日常的に行われている児童一人一人の可能性を伸ばそうとする教員の献身的な努力の成果が、「通信簿を発行することで、多少なりとも減少してしまっている場合があるのではないか」という疑問が本研究の動機である。これが私一人の勘違いかどうか、また多くの教員が感じていることであれば、この課題にどのように対処しているのかを調査したく研究を行った。
通信簿は、全国で様々な方法や形式によって発行されている。学習指導要領の改訂直後で、現在、内容の見直しを行っている学校も多くあり、それらを私個人で把握することは不可能である。そこで本研究において述べることは、本研究の調査範囲内に限ったことである。
2010年7~9月に、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の小学校5、6年生(発達段階を考慮して高学年に限定した)450名を対象に質問紙法によるアンケート調査を実施した。
通信簿に対しての意識は、児童一人一人の背景にある家庭環境や経験等が大きく影響していると考え、あえて、下記のような概要を把握できるような質問を行い、自由記述の記録データからあぶり出されるキーワードを導き出すという方法で行う。
通信簿の発行については、教員一人一人の背景にある人間性や教育観、人生観、経験等が大きく影響していると考える。本研究の調査では、あえて、質問紙等は用いず、対面式のインタビューや電話での取材を行い、下記のような問いかけに対しての回答を記録し、そこからキーワードを導き出すという方法で117名の教員に対して行った。
初めてお話を伺う方からも取材をしたが、どの方も丁寧に詳しく、ご自身の経験や考えを語ってくださった。このことは、多くの教員が、この通信簿に対し、強い関心と問題意識、課題意識を抱えているという証であると受け止めた。職層における違いも明らかにしたいと考え、集計に際しては、「管理職等」と「教員」に分けて行った。
実際の取材では、通信簿のことだけでなく、教育活動全般に対する考えも多く伺うことができた。貴重なお話ばかりであったので、可能な限り記録をした。また、職務上の事情に配慮するために、学校名、個人等が特定できるような公表の方法は行わないとの、こちらのスタンスを最初に伝えた。
「児童への調査」は、通信簿が「楽しみ」「楽しみではない」との群で比較を行い、それぞれの関心の高いものを見出した。それらを踏まえた「教員への調査」の「管理職等」と「教員」の比較では、通信簿に関する意識に相違が見られた。これは、高い見地から学校としての評価を行っている立場と、児童の様子を細かく知り、通信簿を成長のきっかけとしてほしいと強く願う立場との違いによるものだと考えた。
キーワード:通信簿、意識調査、小学校、児童、教員
■参考文献
・教育評価 梶田叡一 有斐閣双書1983
・教育評価の未来を拓く 田中耕治 ミネルヴァ書房2003
・教育評価 田中耕治 岩波書店2008