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創価大学教育学会>書庫>2009年第8回大会口頭発表抄録
口頭発表B-2

教師をエンパワーするスクールリーダーシップについての考察
-北海道東部における同僚性コミュニティ構築の実践を通して-

松浦賢一(創価大学教職大学院 大学院生)

はじめに

photo  近年、スクールリーダーシップが教育政策の優先事項となっている。とくに、大都市圏では団塊世代の退職期に伴い、新任教員の大量採用が加速化しており、管理職の絶対的不足が緊急課題である。
 また採用となる教師の資質能力の向上が重要な課題となっており、校内研修の充実も重要視されている。それを担うべきスクールリーダーシップ能力を持つミドルリーダーが求められている。
 教師としての力量の向上とアイデンティティの構築をはかるためには、教師としての喜びや誇り、苦悩を共有していく場が必要であり、同僚性を基盤にしたコミュニティを構築するためのスクールリーダーシップが不可欠である。
 ここでは、若い教師の育成に焦点をあてて教師のネットワークづくりを試みた北海道東部の実践例を取り上げ、同僚性コミュニティの構築とスクールリーダーシップについて考察したい。

1.スクールリーダーシップ

 スクールリーダーシップの責任は「授業の質、知的な複数のアセスメントの重層的な組み合わせの目標設定と実行、戦略的なリソース・マネジメントと外部パートナーとの協働に集中化するよう、再定義されるべきである」とされている。また、他方では「一般的技能と地元に文脈化された技能が必要である」といわれている。

2.教師が学びあう実践コミュニティ

 1990年代中頃より北海道では、団塊世代の退職期を迎え、全国各地からの新規採用数が増加した。僻地の学校への配属が多く、慣れない地域でリアリティ・ショックを受ける者も少なくなかった。
 教職経験の浅い教師たちが、多くの困難を乗り越えるには、若手教師同士で経験交流し合い、悩みを相談し合うことがある。また、先輩教師からアドバイスを得ながら、次第に力量を形成し発達を遂げていく。つまり、ヴェンガーらが理論化した「実践コミュニティ」が必要であり、それらを構築するスクールリーダーが不可欠である。

3.研修会の概要

 北海道東部では、若手教師が学びあい、同僚性を築いた実践例がある。小規模校では熟練教師が少ないため、学校という組織の枠を超えて地域に拡大した協働文化を創出することになった。
 研修会の参加対象者は、教職経験10年未満の教師である。研修は月1回開催され、その内容は、人間教育の追及や教育者としての資質やあり方を学んだ。講師は、教育研究者や退職した元教師が担当した。広範囲のため地域ごとに小グループを編成し、事前学習やレポート課題に取り組んだ。研修会終了後に交流会を設定し、インフォーマルな雰囲気の中で相談し合えるようにした。そして毎年、研修会終了後に教育実践記録を提出した。
 研修会グループは、6年間研修会を開催し続け、若手教師がエンパワーされる同僚性コミュニティを構築した成功例として北海道中に波及した。
 研修会に参加した教師の感想からは、教師としての既存の自己の解体と新しい自己の発見と創造を求めていっている。

4.まとめ

 時代の変化の中で様々な教育問題が山積する内、教師としての信念が揺らぐ「危機」に陥る経験をした時、教師の成長を支える同僚性コミュニティの存在とその果たす役割は大きい。
 ネットワークは、教育者としての専門性を磨き、力量を形成する資源となる。そのネットワークを構築し、教師をエンパワーするためには、スクールリーダーシップが不可欠である。

キーワード:スクールリーダーシップ、同僚性、実践コミュニティ