創価大学教育学会

創価大学教育学会>書庫>2009年第8回大会口頭発表抄録
口頭発表A-3

児童の事実に学び合う校内研究における若手教員授業力育成の可能性
―抽出児ペア観察法を取り入れた校内研究の実践を通して―

大宝院清孝(創価大学教職大学院 大学院生)

はじめに

photo  近年東京都では、団塊の世代の大量退職に伴う新規採用教員を大量採用する時期を迎えている。平成18年のあり方検討委員会の報告では、「中でも小学校においては、平成25年度までは毎年1,000人を超える教員が必要数として見込まれる」としており、若手教員の育成が喫緊の課題となっている。また、新学習指導要領実施に伴う時数増加も相まって、学校現場は多忙化の一途をたどり、若手育成のための同僚性をはぐくむ暇もない勤務状況を生み出している。今年度からOJTを取り入れてはいるが、新たな施策を実施する為の時間そのものがないというのが、今の学校現場の現状である。
 そこで、K小学校での児童の事実に学びあう校内研究の実践を通して、現在の学校現場に負担にならない形での若手教員の授業力育成の可能性を探ってみたいと思う。

1. なぜ授業力か?

 「若手教師の悩みに答える2008年4月」(財団法人教育調査研究所)の報告によると、若手教員の悩みのトップは「授業がうまくいかない(71%)」となっている。また、東京都人材育成基本方針には、若手教員つまり基礎形成期の教員について「学習指導、生活指導や学級経営における教員としての基礎的な力を身に付ける」と位置付けている。つまり、若手教員育成の主要素としての「授業力の向上」は、現場からも社会要請の面からも、最も求められている課題と考えられる。

2. なぜ校内研究か?

 授業というもの、児童の指導というものは、ハウツーで解決できるほど単純な営みではない。それは、児童・教師一人一人が個性も生活背景も違う独自な存在であり、それらの関係性によって成り立っているものが授業や学校生活であることを考えれば、安易な一般化や即時的な方法論がその子にとって本当によいものかどうかは、もっと慎重に考えられるべき問題である。
 そのような視点にたって若手教員の授業力育成を考えるとき、ともすれば形式的なものに終わりがちな校内研究を、児童の事実を中心軸にしていくことで、現状からの突破口を開くことが出来るのではないかと考え、以下の実践を試みた。

3. K小学校での実践

 今年度のK小学校の校内研究は、算数の少人数指導における「思考力の育成」であった。そこで「児童の事実に学び合う」校内研究を提案し、抽出児をペアで観察して協議を行う方法を実施した。
 具体的には、一人の抽出児の学びを若手とベテランがペアで記録をとり、そのペアで児童の事実からその子の学びと授業のかかわりを協議する。その後グループ協議をして、協議されたことを全体で共有するという校内研究の方法である。

まとめ

 この協議会では、若手もベテランも関係なく、非常に活発に意見の交換が行われた。同じ児童の事実を基にしてペアで話し合うので、安心して自分の考えを話すことが出来ており、若手教員の主体的な学びがあった。また若手のアンケートには「ペアで観たことで、自分の見えていない部分を気づかされた」と、自分の児童を見る目を更新する気づきが生まれていた。また、協議会終了後も階段、職員室等では、授業や児童の学びについての活発な協議が続いていた。ペア観察法とグループ協議による解放された学び合いは、インフォーマルな同僚性を構築する機会も含んでいるのではないかと考えている。今後は、この協議会についての調査と考察を深め、これからの課題を明確にしていきたい。

キーワード:同僚性、校内研究、児童の事実