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創価大学教育学会>書庫>2009年第8回大会口頭発表抄録
口頭発表A-2

東井義雄「第五の形」が持つ可能性
―現代に即応した学級経営の在り方をめぐって―

三浦 剛(創価大学教職大学院 大学院生)

はじめに

photo  近年、学校現場を見れば、家庭環境の変化に伴う教育力の低下や、目まぐるしく発展していく文明社会に起因する人間関係の希薄化等、様々複雑化した問題が後を絶たない。こうした社会状況を踏まえて教育を実践していく上で、要衝となる「学級経営」をどのように施していけば、現場に山積する諸課題を解決することができるか。
 これから求められる学級経営のスタイル、その焦点を地域・学校・家庭が相互に連携した「生活共同体の形成」という点に絞って、学級経営の在り方・本質に迫っていきたい。

1. 恩師の実践

 自身が小学1~3年生までお世話になっていた恩師・伊藤悦也先生の実践を振り返ってみると、地域・学校・家庭の連携をうまく図った実践であったように思う。
 冬、雪が降り積もった翌日にはソリを片手に裏山へ。新緑がまぶしい春、緑が映える夏には、親子レクで山中へバードウォッチングに。図工の時間に苦労して作り上げた連凧は、親子レクで母親と一緒に揚げる。保護者向けに開くオカリナ教室は、教師と家庭が直接つながる貴重な機会に。
 家庭との連携を図りながら、学校生活の中で子どもの心を掴み、地域に開いていく。そんな具体的な試みがなされていたように思う。伊藤先生は、ある面、学級内に留まらず、地域・学校・家庭が相互に連携したコミュニティーの中で学級経営を実践していたのかもしれない。

2. 東井義雄「第五の形」

図1 かつて、一人の子どもの“いのち”に光を当てて教育を実践していた東井義雄氏は、村の学力を再興していくために、家庭と家庭との間に生じている障壁を打ち砕き、第一の形から二、三、四の形を経て「第五の形」を地域コミュニティーの中で築き上げていく必要性があることを説いた。(図1参照)
 氏は、著作『村を育てる学力』で「第五の形は、親・子・教師が、単数のままで、尊敬と磨きあいを展開していくのでなく、一人一人が大事にされる形を残しながら、しかも、親が親たちとなり、子どもが子どもたちとなり、教師が教師たちとなって、その輪を広げていく形である。(中略)村にしあわせをうちたてるための要件はいろいろあるが、村に、好もしい人間関係をうちたてるということは、その要件の中の大事な一つだ」と述懐している。
 これは、「人間関係の希薄化」が脆弱な社会を築く根本悪となってしまっている今日において、教育現場で適用し得る一種の改革理論として光を与えている。

3. 人間関係の醸成「特別活動」の魅力

 「望ましい人間関係の形成」。特別活動に特徴的な文言の一つである。先述の通り、近年希薄化の一途を辿る人間関係を醸成し、学校現場と家庭・地域の連携から「第五の形」を生成しゆくためには、特別活動の充実化を図る必要がある。先に述べた伊藤先生の実践に習えば、特別活動のもつ可能性を俯瞰することができるであろう。渡辺邦雄氏は、論文の中で、特別活動が人間関係の形成にどのような影響を与えるか、その可能性と実践について以下のように論じている。
 「望ましい人間関係の育成を図るためには、他者と直接触れ合う様々な体験活動をすることが必須条件となる。(中略)「為すことによって学ぶ」特別活動の特質は、特に人間関係の形成においては有効に機能する。集団生活を通して様々な人々と出会い、交流し、学習する体験の場や機会を可能な限り設定することが、本課題の達成へとつながる」と。

キーワード:人間関係、連携、学級経営