創価大学教育学会

創価大学教育学会>書庫>2009年第8回大会口頭発表抄録
口頭発表A-1

幼稚園教育にみる人間教育の原点
―成長過程の理解から小学校教育を見つめなおす―

大木秀政(創価大学教職大学院 大学院生)

はじめに

photo 「中学校の先生は小学校から、小学校の先生は幼稚園から学ばなければならない」
大学院での学びで耳にした言葉である。
教師の力量が問われる昨今、何をもってその力をつけるか、さまざまな取り組みがなされている。授業力の向上を高めていく一方、根本的に子どもを知ること自体が大切である。特に子どもの成長を考えた時、その子がどのような発達の段階を経て今に至るかを知ることが子ども理解の重要な視点である。しかし、小学校の教師は入学以前の子どもの学びの姿をとらえきれていないのではないか。学びの場が変わっても子どもの成長はつながっている。ここでは幼児教育の実際を見ながら、小学校教育のあり方を問い直したい。

1.子ども理解の取り組み

実習校:公立幼稚園の協力を得て実習を行った。
実施時期:4月に1回、5月に2回、計3回。
実習クラス:1、2回目は主に3歳児。3回目は5歳児。

2.幼稚園での子どもの姿

遊び方の観察から 3歳児・4月:実習1回目
■エネルギッシュで、間断なく遊ぶ。
■次々と遊びを展開し、目の前の道具で即遊ぶ。
■考えてというより、縁に触れて移り変わっていく。
■個のこだわりが強く、他の園児との関わりは薄い。
■自分と他の子の遊び道具に境がなく衝突し合う。
■円滑に遊ぶには教師の支援が必要な状態。
■箱のような空間を作り、その中にいることを好む。
■大人は誘うが、他の園児を誘わない。
■気づきが他の遊びを広げる。
■主観的で自分の見た見方でとらえようとする。

遊び方の観察から 3歳児・5月:実習2回目
■児童間のかかわりが多くなった。
■言葉によるやりとりが増えた。
 「いれて」「いいよ」「だめ」「あそぼ」等
■自分のことは自分でできるようになってきている。
 登園してからの身支度等
■音楽の時間
 曲がかかると自然に集団となって踊り始める。
■読み聞かせ
 前回に比べて格段の集中力。子ども同士の中で、お互いが仲間として認め合っている様子。

生活の観察から 5歳児・5月:実習3回目
■親へのありがとうプレゼントをつくる。
■各自餌やりや水やりなど役割分担がある。
■集団行動ができ、教師の言葉だけで動ける。

全体の考察
○体全体で遊ぶ。夢中になって楽しんでいる様子。
○幼稚園の先生は遊びそのものが学びであると言われていた。このことは幼児の発達段階を踏まえた子ども観の表れであり、遊びができる環境をさりげなく整えていた。
○モデリングは幼稚園教育の中で教師が大きな役割を果たしている。生活の中に学びが広がっていくことを感じた。
○3歳児も短期間で集団行動が取れるようになっていることに驚く。「学び」の大切さを実感。

3.まとめ

 幼児教育では教師が子どもを温かく見守り、かかわりの中でうまくいかないことも経験として学ばせている。つまり生活がそのまま学びであり、経験が成長となるからである。目の前の子どもを丸ごと受け止め、その子の伸びを見ていく。デューイは、未成熟は単に欠如を意味するのではないと述べている。子どもを「欠如」と見れば「教える」に終始し、子どもの発想や可能性を「引き出す」授業ではなくなる。幼稚園にはまさしく「引き出す」教育がある。小学校の教師は今一度、幼稚園の教育姿勢・子ども観に学び、子どもの成長過程と子ども理解に努めたい。人間教育の原点はこのような実践の中にあると言えよう。

キーワード:子ども理解、デューイ、人間教育