創価大学教育学会

創価大学教育学会>書庫>2008年第7回大会口頭発表抄録
口頭発表B2/教室B403

 校内体制の検討
         - 教室を抜け出す子への対応-

佐藤正(創価大学教職大学院)

はじめに

 勤務校で、授業中に立ち歩き学習の邪魔をしたり、教室を抜け出したりするN君がいた。学級担任が、迷惑行為を注意すると逆切れし、教師に向かって悪口雑言をはき悪態をついた。
 学級担任は、学級にルールを定着させようとするが、N君が注意しても聞かないことを他の児童も見ているためか、学級集団へのルールが根付かない。学級全体が騒々しくなり、N君以外の児童への指示も通りづらくなり、いわゆる学級崩壊の状態になった。
 校内には特別支援委員会が組織されており、多くはN君に厳しくルールを指導した方が良いという考えだった。一方、教頭は、愛情不足が根本にあるのだから、愛情を充足させてあげるべきという考えであった。
 教室を抜け出すなどの特別支援を要する児童を抱えた学級集団へのルールをどのように確立させたらよいのか。さらに、校内支援体制のあり方はどうあるべきかについて検討したい。

事 例

1.児童
 保育園年長の男子、小3男子の2人兄弟の長男。父と母方の祖母の4人暮らし。父は仕事を転々とし、給料のほとんどは自分の酒代に消える。祖母の年金をあてにして、祖母の家に住んでいる。祖母は難聴であり補聴器を付けても会話が成り立たないことが多い。
2.成育歴
 N君が3歳の時、両親は離婚。母と祖母との4人で母の実家で暮らしていたが、N君が5歳の時、母親が飲酒運転の自損事故で即死。
 その後、父親が一緒に住むようになるが、父親に親権はない。父親は、兄弟がいうことを聞かないと、暴力を振るうそうである。学級担任もN君に暴力の痕を目にし何度か確認している。N君は朝食をとらないことが多く、食べたとしても菓子パンやヨーグルトなどが多い。
3.経過
 N君は入学当初から、かっとなりやすくいわゆるキレる子であった。登校するとすぐに裸足になり、授業を抜け出し学級担任は大変な苦労をしていた。気に入らないことがあると、すぐに手足が出てしまい、いくら注意しても自分を抑えられない様子である。
 父親の虐待と思われることがあり、児童相談所と連絡をとり家庭訪問をしてもらったり、学級担任や教頭、教養護教諭等が事あるごとに家庭訪問をしたりし、だいぶ父親の雰囲気も柔らかくなった。一時期、父親を呼び児童相談所の方も含めてこどもたちを福祉施設に預けることを検討したが、父親が責任を持って養育するとのことで、経過観察となった。
 N君が3年の時の対応は、暴れると叱るのではなく受容的に接するべきであるとの教頭の助言を受けていた。教頭は、自らN君におにぎりを用意し、毎朝食べさせていた。その一方で、N君の迷惑行為は学級のルールづくりに悪影響を及ぼすこと。さらに、甘やかすことはN君の自立にとって決してプラスではないという担任やほかの教諭の考えがある。
おわりに
 N君が4年生になると、厳しい男の先生が学級担任になった。それとともに、教室の抜け出しも授業中の立ち歩きもなくなった。学級も落ち着きを取り戻している。
 今年の学級担任が、厳しくルールを指導したことでN君の行動が改善されたと考えられる。しかし、昨年までN君への愛情を充足してきたことが功を奏したと受け止めることもできる。このことをどう考えるべきか。似たような事例に出会った時どのように対応することがより効果的なのか、判断しかねている。