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創価大学教育学会>書庫>2015年 第14回大会研究発表抄録
研究発表A-3

教職大学院におけるグローバル化への対応の現状と課題
 -日本の教職大学院への質問紙調査票の結果と分析-

長島明純/宮崎 猛/三津村正和 (創価大学・教職大学院)

Ⅰ 問題の所在

日本社会は急速な多国籍化、多民族化、多文化化に直面しており、それらに対応する教育を公教育の中で保障するための枠組みを模索する動きが顕著になっている。また、 グローバル経済競争の激化による企業の海外進出や人材の流動化が進む一方で、若者の間に海外に出たがらない「内向き志向」が拡がり、日本の国際的競争力を高めることのできる人材が不足しているとの危機感が指摘されている。上述のような社会的背景において、初等教育における英語教育の教科化或いは中等教育における英語のみによる授業の実体化などの語学力向上を柱とした教育改革、また国際バカロレアに対応した認定高等学校の創設などの制度改革が矢継ぎ早に進められようとしている。こうした動向に呼応し、それらの担い手である教師に対しても、グローバル化に対応した視座や力量をもつことが求められようになった。しかし、教育委員会との連携協力下にある教職大学院は、地域の実情に合わせた需要に応えることも求められており、教職大学院としてどのようにグローバル化に対応することが求められているのか、また対応しうるのかなどについては、十分な検討がなされてこなかったと言える。さらには、グローバル化或いはグローバル競争を経済的な側面からのみ論じることへの懐疑も生じる。そこで、ローカルニーズと教育のグローバル化への要請に対して、教職大学院はどのように応えていくべきかについて多声性の確保された知見を得るために、全国の教職大学院へ質問紙調査票を送付し、日本の教職大学院のグローバル化に対する現状への意識や実態、そして今後の課題を整理することを試みた。

Ⅱ 研究方法

現在、全国に設置されている計27の教職大学院(公立21・私立6)に対して、質問紙調査票を送付し(2015年6月)、15校からの回答を得た(回収率は約60%)。調査票においては、グローバル化の実態に関する質問項目として、①教員、学生に関する質問(「外国籍の教員」「外国の大学での学位取得」「海外での教育・研究歴」「海外の教育・研究機関との共同研究」)、②カリキュラムに関する質問項目(「グローバルな課題を取り上げた授業の状況」「国外研修や視察を含んだ授業」)、③自由記述(グローバル化への対応について、各教職大学院がそのグローバル化を具体的な内容としてどのように捉えているか、またその必要性をどのように捉えているか)等を用意した。

Ⅲ 結果

数値を問う項目の結果としては、外国籍の教員を配置しているのは1大学、外国の大学での学位取得(修士或いは博士)者を教員としているのは計3大学、外国で通算1年以上の教育・研究歴のある日本人教員が在籍しているのは計9大学、海外の教育・研究機関との共同研究している教員が在籍しているのは計5大学等の回答を得た。また、グローバルな課題を授業内容として取り扱う科目を開講している教職大学院は計8大学であった。学生に関しては、短期研修で受け入れている留学生が在籍するのは計4大学、在学中に海外留学を経験した日本人学生が在籍するのは1大学のみであった。自由記述部にあたる「グローバル化をどう捉えているか」という項目に対しては、「大学のグローバル化が言われている昨今にあって、教職大学院だけがこの流れから外れることはできない」など、グローバル化への対応が必要であるとの回答が全体の70%を占める一方で、教職大学院は「もともとローカルなものであり、グローバルな人材を育てる教育と教員養成のグローバル化は直接結びつくものではない」といった回答も見受けられた。

Ⅳ 分析

社会的要請としての「教職大学院のグローバル化」の必要性を感じてはいるものの、それを阻害する心理的或いは制度的な要因があるために、教職大学院のグローバル化は現場レベルではまだまだ取り組むべき喫緊の課題としての意識の共有はなされていないようである。それは依然として教員養成は地域志向型のものであるという意識が高く、また即戦力のある教員を求める学校現場のニーズに対応するカリキュラム編成に重きを置く教職大学院の制度上、致し方ないという気風があると言える。しかし、専門職大学院である教職大学院こそが、これからの社会を担うグローバルな視野をもった子どもを育成することのできる教員を輩出すべく、その制度設計にあたるべきであるとの相克もある。当日は、これらの議論を踏まえ、日本の教職大学院におけるグローバル化についての捉え方とそれへの対応について、更なる分析と議論を展開したい。

キーワード:日本,教職大学院,グローバル,ローカル