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創価大学教育学会>書庫>2014年 第13回大会研究発表抄録
研究発表B-1

福島における原発事故影響~子どもの体格・出生時性比・甲状腺癌~

梅津 累(創価大学 教育学部 児童教育学科)

はじめに

2011年の東日本大震災に伴う東京電力第一原子力発電所事故により、福島県は大きな被害を受けた。放射能汚染による被害は甚大で、故郷を追われた人々が多くいるほか、県外避難先での差別、食品汚染、健康被害など非常に多くの問題が生じている。このような故郷の状況を目の当たりにし、福島の人間として何かできないかと思い、今大学で学んでいる学問で何かしようと考えたのが、本研究を始めた動機である。

3年時から創価大学教職大学院の桐山ゼミで、脱原発・放射能による健康被害について学び、福島市での現地調査なども行った。その経験も含め発表を行う。

1.子どもの体格

原発事故により多大な被害を受けた福島県は、放射能汚染に苦しめられた。多くの県民が避難生活を強いられたり、また避難しないまでも放射線量の高い地域では、屋外での活動が制限されたりした。文部科学省の『全国体力・運動能力、運動習慣等調査』のデータをもとに調べてみると、福島県の肥満傾向児の出現率が事故後上昇していることがわかった。原発事故後の平成24・25年度において、男児の肥満傾向児出現率は、事故前の22年度より有意に上昇し高い状態が続いていた。事故前は男女間の肥満傾向児出現率に有意な差はなかったが、事故後に男児の方が女児よりも有意に高くなった。東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県と宮城県においては、震災後に肥満傾向児出現率の有意な上昇は見られなかったことから、福島県においては、原発事故により子どもの屋外活動が制限され、肥満傾向児出現率の上昇が生じたものだと考えられる。

2.福島県の出生時性比

人類誕生から現在まで、男と女は105:100の比率で生まれてくることが明らかになっている。これは自然の法則と言える。しかし過去の研究から、放射能によって出生男女の比率にも影響が及ぶことがわかっている。被曝した親から生まれてくる子どもの性別に影響が現れる。母親が被曝すると女子の比率が上がり、父親が被曝すると男子の比率が上がる。広島原爆後の男女出生率の調査によると、男子の比率が高くなったことがわかった。そこで、まず平成21~25年度の福島県全体の出生率(=出生数/人口)を調べたあと、実際に福島県の地域ごとで、推計人口のデータをもとに、平成21~25年度の男女出生数と性比について比率の検定にかけた。県全体の出生率は事故の翌年は出生率が下がっていることがわかった。また、平成24年度で原発に近い相双地区で男児の出生数が有意に減少していた。しかし県内の他地域では、事故前と事故後で有意な差は見られなかった。

3.小児甲状腺癌

福島県の報告書から、受診者約37万人のうち2次検査となって細胞診を受診し悪性 (疑いも含む)と診断されたのは104人である。このうち103人は甲状腺癌、1人は良性結節であった。報告書を見ていくと、甲状腺癌は男よりも女が多いこと、受診者数に対する悪性者数の比率が年齢とともに急増することがわかった。 岡山大の津田(2014)によると、平成25年12月31日付報告書のデータを使って、福島での発生数が数年の平均有病期間を考慮してもなお統計的に多発(自然現象に比して有意に多い発生)であるという。一方、福島県は先行検査というスクリーニングによる早期発見であるとの立場をとる。それなら地域差が見られることは考えにくい。今回の報告書でも、県を4地域に分けて、原発から遠い会津地方に悪性者率(その地域の悪性者数と受診者数の比率)が低いことを認めるものの、会津地方の2次検査結果が全部出ていないことを理由に悪性の発生に地域差は考えにくいとの考察を示している。桐山(2014)はスクリーニングによる早期発見との見解には慎重な態度を示している。

≪引用文献≫
1) 文部科学省:全国体力・運動能力、運動習慣等調査
2) 福島県:人口統計
3) 福島県:甲状腺検査報告書
4) 津田敏秀 2014 科学 84(3):0279-0282.など