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創価大学教育学会>書庫>2014年 第12回大会口頭発表抄録
口頭発表C-2

児童版自己受容尺度の作成及び信頼性・妥当性の検討

安東正孝/島谷賢吾(創価大学教職大学院 教職研究科)

Ⅰ.研究の経緯

教育実習の際に「将来はハリウッドの映像分野で働きたい。」と言う子どもに出会った。その子にピッタリの素晴らしい夢だと思っていたのだが、その子は同時に「でも、ハリウッドなんて絶対無理だよね」と言っていた。私たちは、大人の目から見ても絵やデザインが上手で、努力も重ねているこの児童が、なぜ将来の夢に対して消極的なのかと思った。そして、その要因の一つとして、自尊感情の低さを考えた。自尊感情を育て、自分はできるという感覚をもつことによって、この児童が夢に向かって進んでいけるのではないかと感じた。こうした経験から、子どもの自尊感情の育成に興味を抱くようになった。本研究では、子どもの自尊感情育成の第一歩として、児童の自己受容感に焦点を当て、その尺度作りに挑戦する。

Ⅱ.自己受容感とは

伊藤(1991)は自己受容について「ありのままの自己を歪めることなく認識し、自分自身として受け入れ好きになること」と定義し、その中には「認知(評価)的側面」と「感覚的側面」があるとした。「認知(評価)的側面」とは、社会的な規範に照らして、自分自身を良いとする感覚であり、「感覚的側面」とは、個人的基準に照らし、自分で自分のことが好きと感じられる感覚である。これは、近藤(2007)が定義した自尊感情の「社会的自尊感情」と、「基本的自尊感情」と近い概念であると考える。よって、自己受容感を測定することで、直接的に子どもの自尊感情を測定することができると考えた。

Ⅲ.研究の概要

第1研究として、伊藤が作成した「自己受容尺度」(中学生・高校生・大学生向け)を、児童用(小学校高学年)に改編し、アンケート調査によって、その妥当性と信頼性を検討する。具体的には、まず「自己受容尺度」の言葉を児童用にわかりやすく言い換える。その後、予備調査として、高学年の児童10人程度にアンケート調査を行い、わかりにくい項目を削除する。以上の手続きを経て、本調査を小学校高学年の児童150人程度に実施する。得られたデータを因子分析にかけ、妥当性・信頼性の認められた項目を選択し、新たな尺度とする。

第2研究として、第1調査で得られたデータをもとに、横軸に認知的側面、縦軸に感覚的側面をとり、4つのタイプに分類する。その後、第1研究の際に同時に行った「自己受容要因アンケート」のデータを、4つのタイプと照らし合わせ、分散分析を行う。そして、各要因の有意差をみることで、どの要因が各タイプの児童の自己受容感と関連が強いかを考察する。さらに、4つのタイプからそれぞれ抽出した児童へのインタビュー調査を行い、関連性の再検討を行う。

Ⅳ.今後の展開

安東が今回の研究で、児童版自己受容尺度の作成と自己受容のタイプ別に見る自己受容要因の傾向を提言する。それをもとに、次年度は島谷がさらに詳しい要因の分析と、具体的な教育プログラムの提言を行う。そして、3年目には、2人とも現場に出ているので、それぞれの所属する学校で実際にその教育プログラムを実践し、事前事後で教育効果が見られるかを検討する。その後も、自己受容の発達段階による差や、地域による差など、より深い研究を続けていきたいと考える。

キーワード:自尊感情,自己受容,心理尺度

≪参考文献≫
・伊藤美奈子 (1991)「自己受容尺度作成と青年期自己受容の発達的変化 : 2次元から見た自己受容発達プロセス」発達心理学研究 2(2), 70-77
・近藤卓 (2007)「「生きる力」を支える自尊感情」『児童心理 七月号』 金子書房