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創価大学教育学会>書庫>2010年 第9回大会口頭発表抄録
口頭発表D-3

発言機会の違いが及ぼす影響の比較
~小学校歴史学習の実践を通じて~

西中 克之(創価大学教職大学院 教職研究科)

はじめに

 クラウドサービスが全盛である。このようなシステムのように、知識や技術を共有する機運が近年高まっている。学習においても同様の考え方が出てきている。佐伯(1998)は「知的営みの実践は、個人の頭の中の活動に帰属されるべきものではなく、他者と分かち合い、他者と協力し合うことによって、社会的に実現されるものである。」と論じている。日本協同教育学会(2009)でも、「学習は社会的な営みである」とした上で、「知識は周囲との相互作用により深まるもの」と述べている。こうした学習者同士が互いに高め合おうとする学習観に筆者は共感を覚える。

 また、中央教育審議会(2008)は、「知識基盤社会における資質や能力に関して、幅広い知識と柔軟な思考力に基づいた判断力が重要」と指摘している。こうした背景を受け「授業における知的な営みの相互作用が学習者の思考力・判断力を促進するだろう。」との仮説を立てた。本研究は、この仮説をもとにして実践・検証するものである。

1.歴史学習で身に付く思考力・判断力

 柔軟な思考力の育成をはかる上で、小学校における歴史学習は、児童の判断力を身につける絶好の学習であると判断した。それは、歴史上の人物に共感を覚えたり反発を覚えたりする過程を通して、学習者自身の歴史に対する評価が表れると考えるからである。歴史に対する評価は、学習者における歴史観そのものにもなる。

 本研究における授業の実践では、歴史上の人物の視点から考える学習課題を設定した。視点が定まることにより、北(2002)が述べている、「社会的事象と自分との関わりを考えること」が授業において実現しやすいと考えたからである。学習者には、歴史学習を通して歴史上の人物に興味をもつとともに、資料を元にして過去と現在の問題を関連付けて考えてほしいと願うものである。

2.研究方法

 今回の実践は、教育実習先の東京都の小学校6年生に対して行ったものである。そのうち、2クラスでは協同学習の技法を用いて実践(協同群)を行った。また、同学年の1クラスにはコの字型になって全体での話し合いを中心にした実践(コの字群)を行った。異なる学習形態を用いたのは、発言の機会が変わることが学習に対する主体性や社会科における思考力・判断力に及ぼす影響を考察するためである。なお、全3クラスとも授業で扱う教材等は同じものを用いた。

 協同群では、Johnson兄弟が提唱する協同学習(①相互協力関係・②対面的積極的相互作用、③個人の責任、④小集団での対人技能、⑤グループ改善の手続き)を取り入れた。これで、発言権の強い・弱いに限らず、多くの子どもが安心して発言することができると考えた。コの字群では、ハンドサイン(挙手時に追加・反対・他の意見をグー・チョキ・パーで表す)を用いて、児童が相互で指名する場面を設けた。学習者同士が相互で指名することで、他者に対する意識が変わり、授業を受け身姿勢から主体的に取り組もうとする能動的な姿勢に変容することを期待した。

3.結果

 協同群では小グループでの話し合い時に表情豊かに意見交換をする様子が見られた。友達の発言を受けて言い直したり、確認したりしながら活動している様子も見られた。一方、コの字群では、個人での作業に取り組んでいる際に多くのつぶやきを聞くことができた。全体の話し合いでは、発言者の間では活発な話し合いになったが、授業中に一度も発言しない児童も存在した。

 思考過程を確認するために記述内容を確認した。その結果、学習感想における授業に対する肯定的な記述については両群で差が見られた(P<0.05)が、図や絵を用いたり、仲間の意見を取り入れたりして記述するなどの工夫は両群に見られた。また、登場した人物を自分なりに評価したり、人物の働きを自身の生活に生かそうとしたりする記述も両群に見られた。

4.成果と課題

 今回の実践では、記述量において主体性を測定することができた。今後は条件や機会をより均等に近付けた上で検証する必要がある。また、発言の機会と思考力の関係性についても方法を検討し、今後の研究を進めていきたい。

キーワード:発言の機会,相互作用,思考力・判断力